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フェイクラヴァーズ

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「もとい」
 日野は咳払いして言い直した。
「しばらく俺の彼女のふりをしてほしい」
「あ、ふり……と言われましても……どうしてですか?」
 坂上は驚き固まっていた表情を緩ませながらも、訝しげに問い返す。
「それは……」
 



「なるほど、恋人がいることをアピールして、その人を諦めさせようってことですね……」
 日野が先程六人に語ったのと同じ内容をかいつまんで説明すると、坂上は納得したように頷いた。
「わかりました。日野先輩の受験の為にも、僕にできるかぎりで協力しますよ」
「そうか!やってくれるか!」
 日野の目には坂上が天使のように見えた。感激にうち震えながら後輩の手を握ると、そのあまりの小ささに「こいつ本当に女なんじゃ」という疑念が浮かんでくる。
 そんな思考を遮るように、坂上は小首を傾げた。
 
「でも、本当に僕でいいんでしょうか?もし、男だってことがバレたら……」
「大丈夫だよ!私達は坂上君を見慣れてるからすぐにわかったけど、他の人なら絶対わからないと思う!ねぇ、岩下さん!」
「そうね。いつもの坂上君も可愛いけど、そんな恰好をしていると本当に女の子みたいだわ」
「違和感はまったくありませんよ坂上君」
「男だとわかっていても抱きしめてあげたくなるね」
「すごく似合ってるよ坂上君〜!うふふ」
「は、はぁ……」
 フォローのつもりなのだろうか。口々に女装を褒めたたえられ、坂上は複雑そうに微笑みをひきつらせた。
 
「つうかお前、何でそんな恰好してんだよ。まさかそういう趣味なわけじゃねぇよな?」
 新堂はほんのりと頬を染め、微妙に視線を逸らしながら、誰もが気になっていたことを尋ねた。
「ち、違いますよ!」
 坂上は慌てて疑惑を否定する。
「これは……その、倉田さんと元木さんに頼まれて仕方なく!」
「倉田?どういうことだ」
 まだ手を握ったままでいる日野の質問に、坂上は苦笑して肩をすくめた。
「ええと、今度のゴミケに女装した男の子が主人公の小説を出すから、モデルになってほしいとか……」
「ああ、例のやおい小説か……。お前なぁ、あいつの頼み事、何でもほいほいきくなよ。嫌ならきっぱり断らないと、どんどんエスカレートしていくんだからな」
「おい、何だよそのゴミケだのやおいだのってのは?」
「それはだな……世の中には知らなくてもいいこともあるってことだ」
「はぁ?」
 
 まったくわけがわからないという顔をしている新堂を無視して、日野は坂上に向き直った。
「じゃあ、その制服は倉田のか?」
「はい、あ、いえ。倉田さんのですけど、手作りらしいです。だから生地の手触りや色合いが微妙に違うんですよ」
「ハンドメイドですか」
 興味をひかれたのか、荒井が立ち上がって近づいてきた。
「しかし、本物と見比べてもほとんど違いがわかりませんね。近くで見るとなおさら、ディティールまで完璧に再現されている事が窺える。縫製も見事なものですよ。倉田さんは大変な職人ですね」
「そうなんですか?」
「ええ。きちんと採寸したんですね。坂上君の体型に合わせて作られてある。着心地がいいでしょう?」
「そ、そういえば……」
「僕の友人にも曾我君という素晴らしい天才、いえ、神がいるのですが、彼は自作の等身大フィギュアに──」
「荒井、そこまでにしておけ。今はとにかくストーカー対策だ」
 いつまでも続きそうなマニアックトークを遮り、日野は荒井に着席を促した。荒井は名残惜しそうにしながらも、渋々元の席に戻る。
 
 気を取り直して、話し合いを再開した。
「つまりその制服はしばらく借りておけるんだよな、坂上」
「というか、貰いました」
「それじゃあ、毎日昼休みと帰り道ではその恰好で俺の傍にいてほしい」
 日野が改めて具体的に依頼すると、坂上は少し考えるそぶりを見せた。
「相手の女の人は、この学校の生徒なんですか?」
「いや、他校生だ。隣町の女子高の制服を着ていたからな。それがどうかしたのか?」
「……手紙には日野先輩の行動が詳しく書かれていたんですよね。他校生なら、どうして日野先輩の行動がわかったんでしょうか?もし、盗聴器か何かが仕掛けられているとしたら……」
「それは無いな」
「何故ですか?」
「俺だってただ怯えてたわけじゃない。これまでに届いた手紙を調べてみたんだが、教室にいる間と帰宅時のことしか書かれていなかったんだ。体育の時間や男女分かれて行動しているとき、部活中のことにも触れられていない。それが生身の人間だと思う根拠でもある」
「つまり──彼女には協力者がいる。その協力者は日野さんのクラスメートの女性で、部活動をされている方ということですね?」
 荒井の推理に頷き、日野は続けた。
「恐らくその協力者は、ストーカー行為の手助けをしているつもりはないだろう。帰り道では本人に尾行されている気がするんだが、教室で感じる視線に嫌な感じは受けない。誰がそうとは特定できていないが、友人の恋を応援してるだけなんじゃないか」
「それじゃあ、その子を問い詰めたってしょうがないわね」
「そうかな。うまく話せば、ストーカー行為をやめるよう本人を説得してもらえるかもしれないよ?」
 風間の意外にまっとうな提案に、日野は首を振った。
「いや……話してわかるような相手じゃないさ。小学生の頃だって、思い込みが激しくて、時々とんでもないことを仕出かすような奴だったから」
「たとえばどんなことですかぁ?」
「怪しげなおまじないをことごとく実践していたな。消しゴムに緑のペンで好きな奴の名前を書くとか、そのくらいなら可愛いもんなんだが、好きな奴の靴を勝手に履いて歩いたり、好きな奴のリコーダーを吹いたり……、あげくのはてにはそいつの子供ができたと言い触らしたり」
「大川大介みたいだね」
「及川さんっぽいところもあるのね」
「そうだな。好かれた奴は災難だが、何故か本人はいじめられることもなく、むしろ同情をかって周りを味方につけるのが上手いんだ。だから協力者をけしかけても、最悪まるめこまれて終わりだろう。下手をするとこっちが悪者扱いされる」
「難しい問題ですね……」
 予想以上の悪質さに、坂上は少し怖じ気づいたようだった。
 
「……ひょっとして、日野さん、貴方の狙いは、彼女を諦めさせることではないのでは?」
 不意に荒井が口を挟む。それは質問というより確認だ。
「ああ。あの女は好きな相手に彼女がいるくらいで引き下がるような奴じゃない。さっき福沢が言ったとおり、必ず逆恨みして相手を潰しにかかるだろう。それを逆手にとるんだ」
「囮作戦ね」
「正解だ、岩下」
 
 語り部達は一気に納得ムードになったが、坂上はひとり理解できずに聞き返した。
 
「え?囮?」
「わざとあの女の見ている前でいちゃいちゃして挑発する。それで相手が何かしら問題を起こしてくれれば、警察に突き出すなりできるだろ?」
「えっ!?それってかなり危険なんじゃ……それより、今警察に届けてその手紙を提出するとか」
作品名:フェイクラヴァーズ 作家名:_ 消