二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

家族ごっこ【下】

INDEX|2ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

#9


 結局友晴が帰らないまま数日が過ぎた。坂上は荒井一家に対する疑念にとらわれながらも、純粋に友晴を心配する気持ちもあった。
 週末、家族の靴磨きを終えて手を洗おうと洗面所に向かう途中、リビングからヒソヒソと荒井家の人々の話し声が聞こえてきた。他愛のない会話であれば気にせず素通りしただろうが、彼らの口調には異様な雰囲気が漂っていて、思わず足を止め、盗み聞きするような形になってしまった。
 
「もう三日か?友晴の奴、一体どうなってやがるんだ」
「無事なら連絡くらいは来る筈よね」
「ねぇ、もしかして、殺されてるんじゃない……?」
「縁起でもねぇこと言うなよ玲子」
「でも、有り得ない話じゃないわ」
「そうだね。僕らは全員、いつ、誰に殺されてもおかしくはないさ」
「ちっ……」
 
 殺される……?この人達は一体、何を言っているのだろう。誰かの恨みを買うような事をしてきたというのだろうか?動揺した坂上は、思わず後退り、その拍子に足をドアに引っ掛けてしまった。蝶番が細い悲鳴のような音を立てる。荒井家の人々が一斉に振り向いた。
 
「……何だい、修一。いたなら声をかければいいのに」
「びっくりさせんなよ」
「す、すみません」
 
 何事もなかったような顔で、彼らはソファでくつろいでいる。坂上は、今の会話について尋ねようか迷った。
 
「何か用かしら」
 一向に立ち去らない坂上に、明美は紅茶に口をつけながら尋ねた。
 
「あ、あの、お話が……」
 
 意を決して言いかけたが、彼らの視線がまるで脅すように坂上に絡み付いてきたため、言葉が続かなかった。
 
「……やっぱり、今度にしますね!」
 
 坂上は無理に笑顔を作ると、そそくさとその場を立ち去った。
 
 
 強い陽射しが照り付ける住宅街を、猫背の青年が額の汗をハンカチで拭いつつ歩いていた。肩に下がる鞄は見るからに旅行用のもので、左手はお土産とおぼしき袋で塞がっている。彼はキョロキョロ辺りを見回し、時に電柱で現在地の住所を確認しながら歩いていた。
 散歩に行こうと門前に出ていた日野は、その姿を不審に思い、ちょうど彼とすれ違う時に声をかけてみた。
 
「どなたのお宅をお探しで?」
 
 問い掛けに振り返った青年は、よく見ると日野や望より少し若いようだった。サラサラと指通り滑らかそうな前髪は簾のように額に掛かり、瞳までも隠れそうな長さで彼を陰気に見せている。
 
「ああ、貴方この近所の方ですか?実は、自分の家を探しているんですよ」
 
 そう答えると、青年は口元だけで微笑んだ。
 
「は?」
「何しろ、三年前に家を出たきり一度も戻っていないものですから、迷ってしまいまして。この辺も随分と変わってしまいましたね」
 
 青年はハンカチを胸のポケットに収めつつ、周囲の家々に視線を移した。
 
「で、お前の家ってのは?」
 
 妙な胸騒ぎを覚えて日野が尋ねると、青年は再び日野に目線を合わせ、何かを確かめるようにじっと見つめると、やがて口を開いた。
 
「申し遅れました、荒井昭二と申します。この辺りに荒井という屋敷がある筈なんですが、御存知でしょうか?」
 
 
 妊娠中の坂上を助ける為、勤務時間を調整して昼間家にいるようになった明美は、この日も出掛けずに裁縫などをして過ごしていた。午前中いっぱい針仕事をしていた彼女は、目を休めようと手を止め、昼食作りに取り掛かろうと廊下に出た。
 
「…それははるばるお疲れ様でした。……はい、明美さんでしたら…今お呼びしますね」
 
 坂上がインターホン越しに門前の客と話している。どうやら作業に没頭していて、チャイムが鳴ったのに気付かなかったらしい。
 
「修一君、どなた?」
「次男の荒井昭二さんです。留学していたヨーロッパから、今朝帰国されたそうで……」
 
 それを聞いた途端、明美は血相を変えた。
 
「今更何の用なの!?」
「え……」
「あの子は…誠さんと大喧嘩をして、家出同然で向こうに飛んだのよ。…私達があの子の為に貯めていたお金を、無断で銀行から下ろして…。どうせ事業にでも失敗して、お金の無心に来たに決まってるわ」
「でも、昭二さんは久し振りに皆さんに会ってお話がしたいと……」
「そんなの口実に決まっているわ!貴方、私がここにいると答えたの?」
「は、はい……」
「しょうがないわね。今日は気分が優れないからと追い返すのよ」
 
 息子に対して怒りを感じているというより、彼に会うこと自体に怯えているような様子だった。坂上は躊躇いながらも、言い付け通り昭二に説明した。
 
『そうですか……では、また明日にでも出直します。しばらくはホテル鳴神に滞在していますので、何かあったら連絡ください』
 
 昭二は残念そうに去って行った。
 
 
 誠が出先から帰宅すると、明美はわざわざ玄関まで出て行って彼を迎え、昼に昭二がやってきた事を報告した。様子を窺っていた坂上は、誠までが険しい顔で考え込んでいるのを目にした。
 
「あいつが帰ってくるなんて…一体何考えてんだ」
「もしかしたら…何か勘繰っているんじゃないかしら」
「……明日来るんだよな」
「ええ…」
 
 ふたりの異様に怯えた様子に、坂上は疑念を深める。荒井昭二──穏やかな声に、丁寧な口調だった。決して、肉親に金の要求を突き付けるような人には思えない。たとえ相手が善意であろうと、彼らは昭二に会いたくない事情があるのではないか。そしてそれは、もしかしたら……。坂上はふと、以前部屋の整理中にみつけた写真の事を思い出した。坂上の知る荒井家に家族構成が似ている一家。彼らも、いや、彼らこそが、本来の荒井家なのではないか。六人目──真ん中の息子は、二十歳前後に見えた。あれが二年前以前に撮られたものだとすれば、彼が昭二なのでは…?
 
(じゃあ、昭二さん以外の人達は、何処に……?)
 
 そこまで考えて、坂上はぞっとした。
作品名:家族ごっこ【下】 作家名:_ 消