恋するワルキューレ 第二部
『恋するワルキューレ』第2部
第7話『裕美、モデルデビュー! 〜 店長さんは、わたしだけのカメラマン』
To: Hiromi-Hojo(北条裕美様)
Title:裕美さん、ツールド草津 祝勝会のお知らせです。
From: ワルキューレ滝澤秀彰 XX月XX日 13:42
―――――――――――――――――――――――――――――
裕美さん
ツールド草津での3位入賞、本当におめでとうございました。
先週お約束した通り、裕美さんの祝勝会を開かせて頂きたいと思います。
最初は僕やツバサだけでお食事でもと思っていましたが、ワルキューレのメンバーに声を掛けた所、チームの皆さんも是非裕美さんの入賞をお祝いしたいそうで、プレゼントまで用意して下さいました。
皆さんも裕美さんとお会い出来ることを楽しみにしています。
今回のパーティーは裕美さんが主役ですので、何かリクエストがあれば遠慮なく言って下さい。出来るだけご要望にお応えいたします。
裕美さんがご紹介して下さった駿河台のフレンチのお店ですが、貸切で予約することが出来ました。料理も店長がかなりサービスしてくれると言っています。楽しみにして下さい。
フレンチ・レストラン『ラ・クール・ド・オール』
XX月XX日(土) 19:00 スタート
追伸
裕美さんにご相談したいことがあります。
パーティーの後にお話しをさせて下さい。
ロードバイクショップ『ワルキューレ』
** 滝澤 秀彰 **
携帯:090-XXXX-XXXX
* * *
「うーん、どうしよう? どっちにするか迷っちゃうわねえ……」
裕美は全身が映る鏡の前で、スカートを幾つも見比べながら悩んでいた。何度もスカートを履き変えては鏡の前でポーズを取る裕美の姿は、同じ女から見ても、ちょっと自意識過剰なんじゃないの?と言われても仕方ない程だった。
でも、今日はそんな“甘い”ことは許されない。“彼”がわざわざ自分の為にパーティーを開いて呉れる。しかも私をパーティーの主役とまで言って誘ってくれたのだ。
女としての矜持が問われるこの場で“手抜き”などをしては、愛と美を信条とする裕美の存在理由“レゾン・デートル”〈la raison de etre〉を捨てることに他ならない。
《女は愛と美にこそ自らの身を捧げるべきよ!》
裕美はいつもそんな信条”Motto”を胸に刻み、女としての人生を生きてきたつもりだ。だから高級ブランドの『ロワ・ヴィトン』に就職だってしたし、たかだかロードバイク用のジャージにさえ拘って、自ら愛と美の女神“ヴィーナス”をモチーフとしたジャージだってデザインしたのだ。
その努力の甲斐があって、この前のヒルクライム・レースで“彼”の気を引くことにだって成功した。そしてこのパーティーの招待状だ。当然、気合も入る。
しかし一方で、裕美は妙に浮ついた気持ちになって、足が地に付いた感覚がない。文字通り舞い上がってしまったような気分で、服を選ぶのだって迷ってばかりで一向に決まらない程だ。
それは“彼”からの最後のメッセージを見たからに他ならない。
『パーティーの後にお話しをさせて下さい――』
いつもお店で会っているのに、このパーティーで“彼”が私と話がしたいと、わざわざメールを送る位だ。当然、二人だけでの話なんだろうし、女なら誰だって期待してしまう!
一体、彼は私に何を求めてくるのかしら……?
裕美はつい顔を赤らめてしまうが、同時に緊張感にも包まれる。
こんなチャンスで失敗は許されないわよ、裕美!
この最高のチャンスに、何としても彼の胸を愛の矢で射止なければならない。そんな焦りと緊張が、裕美に服を選ぶことを迷わせていたのだった。
特に悩むのはスカートだった。
“女”としての魅力を魅せるのだから、フレアスカートのようなフワフワしただけのスカートではノン・ノン! 女の子らしさは出せるかも知れないが、それでは大人の女としての色気も知性もあったものではない。“彼”の気を引く効果はゼロだろう。
「ああ、裕美さん、こんにちは」
その一言で終わってしまう。
何としても彼の心を揺らさなくてならないのだから、そんな無難な路線ではダメだ。
出来れば、ヒップラインを強調できるタイト・スカートか、脚線美を見せることができるショートパンツで決めたい。
裕美にだってスタイルに多少は自信があるし、それも満更、自惚れではないと思っている。
日本に帰って大学に入った時に、それまで続けていたバレエを止めてしまったのだが、それに伴って少々ボディ・ラインが緩んできたのが悩みの種だった。
しかしロードバイクを乗り始めてから、明らかにスタイルが変わった。
まずウェストが細くなった。
スカートを履く時に、多少ウェストが細くなった感触はあったのだが、当初痩せたという実感はなかった。と言うのも、体重自体は依然変化はなかったからだ。ビジネス用のタイト・スカートやジーンズを履く時もウェストは細くなっても、ヒップ周りは緩くなった感触がなかったので、最初はお通じが良くなったせいかな?ぐらいにしか思わなかった。
しかしお腹から下腹部にかけて、明らかに細くなったことに気付いた時に、ボディを鏡でチェックしてそのカラクリに気が付いた。
脂肪だけが落ちてる! 代わりに筋肉が増えたんだ!
意外にもバストのサイズも変わっていない。でもウェストからお尻、太ももにかけての脂肪が明らかに落ちている。ヒップのサイズが変わっていなかったのには、そこに筋肉が付いたからだった。
ロードバイクは下半身の筋肉、特に腰、臀部、大腿筋を主に使うスポーツ。ちょうどその部分だけが、脂肪が減って代わりに筋肉が付いていた。女性は男性と比べお尻や太腿に脂肪が付き易く、裕美も悩みの種ではあったが、その脂肪が綺麗な形で無くなっていた。
特にお腹の内臓脂肪が取れたことは効果絶大で、増えた筋肉に以上に脂肪が取れた結果、ウェストが引き締まり、お尻の筋肉が盛り上がることで、より凹凸のあるボディが強調されるようになった。
スタイルが良くなったことで、ボディラインを出す服を着ることが恥ずかしくなくなったし、今までちょっと諦めていた様な服も着れる様になった。ロードバイクによって得た思わぬ副産物であるが、女の子にとってこんな嬉しいことはない。“彼”に対して、これを利用しない手はない!
けれども裕美が、エッチな女の子の様に知性の欠片もなく、露骨に色気を振り撒く訳にはいかない。
全ての女神は美しさだけでなく、すべからく知性と上品さを備えているもの。
だからこそ世の男たちは理想の女性として、古来よりギリシャ神話の女神を讃え、キリスト教世界においては聖母マリアが常に敬われていた。それは今でも変わっていないと裕美は考えている。だから世の女性達は皆、華麗なデザインながらもロワ・ヴィトンのような上品なブランドに憧れるのだ。
ただ今日の様な休日でのカジュアルなパーティーでは、ロワ・ヴィトン・グループのファッションではちょっと浮いてしまう。TPOをわきまえブランドものはブラウスと靴だけに抑えた。結局スカートではなくショートパンツにして、カジュアルさを出すことにした。その代わりストッキングは履かず“生足”仕様で勝負するつもりだ。
第7話『裕美、モデルデビュー! 〜 店長さんは、わたしだけのカメラマン』
To: Hiromi-Hojo(北条裕美様)
Title:裕美さん、ツールド草津 祝勝会のお知らせです。
From: ワルキューレ滝澤秀彰 XX月XX日 13:42
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裕美さん
ツールド草津での3位入賞、本当におめでとうございました。
先週お約束した通り、裕美さんの祝勝会を開かせて頂きたいと思います。
最初は僕やツバサだけでお食事でもと思っていましたが、ワルキューレのメンバーに声を掛けた所、チームの皆さんも是非裕美さんの入賞をお祝いしたいそうで、プレゼントまで用意して下さいました。
皆さんも裕美さんとお会い出来ることを楽しみにしています。
今回のパーティーは裕美さんが主役ですので、何かリクエストがあれば遠慮なく言って下さい。出来るだけご要望にお応えいたします。
裕美さんがご紹介して下さった駿河台のフレンチのお店ですが、貸切で予約することが出来ました。料理も店長がかなりサービスしてくれると言っています。楽しみにして下さい。
フレンチ・レストラン『ラ・クール・ド・オール』
XX月XX日(土) 19:00 スタート
追伸
裕美さんにご相談したいことがあります。
パーティーの後にお話しをさせて下さい。
ロードバイクショップ『ワルキューレ』
** 滝澤 秀彰 **
携帯:090-XXXX-XXXX
* * *
「うーん、どうしよう? どっちにするか迷っちゃうわねえ……」
裕美は全身が映る鏡の前で、スカートを幾つも見比べながら悩んでいた。何度もスカートを履き変えては鏡の前でポーズを取る裕美の姿は、同じ女から見ても、ちょっと自意識過剰なんじゃないの?と言われても仕方ない程だった。
でも、今日はそんな“甘い”ことは許されない。“彼”がわざわざ自分の為にパーティーを開いて呉れる。しかも私をパーティーの主役とまで言って誘ってくれたのだ。
女としての矜持が問われるこの場で“手抜き”などをしては、愛と美を信条とする裕美の存在理由“レゾン・デートル”〈la raison de etre〉を捨てることに他ならない。
《女は愛と美にこそ自らの身を捧げるべきよ!》
裕美はいつもそんな信条”Motto”を胸に刻み、女としての人生を生きてきたつもりだ。だから高級ブランドの『ロワ・ヴィトン』に就職だってしたし、たかだかロードバイク用のジャージにさえ拘って、自ら愛と美の女神“ヴィーナス”をモチーフとしたジャージだってデザインしたのだ。
その努力の甲斐があって、この前のヒルクライム・レースで“彼”の気を引くことにだって成功した。そしてこのパーティーの招待状だ。当然、気合も入る。
しかし一方で、裕美は妙に浮ついた気持ちになって、足が地に付いた感覚がない。文字通り舞い上がってしまったような気分で、服を選ぶのだって迷ってばかりで一向に決まらない程だ。
それは“彼”からの最後のメッセージを見たからに他ならない。
『パーティーの後にお話しをさせて下さい――』
いつもお店で会っているのに、このパーティーで“彼”が私と話がしたいと、わざわざメールを送る位だ。当然、二人だけでの話なんだろうし、女なら誰だって期待してしまう!
一体、彼は私に何を求めてくるのかしら……?
裕美はつい顔を赤らめてしまうが、同時に緊張感にも包まれる。
こんなチャンスで失敗は許されないわよ、裕美!
この最高のチャンスに、何としても彼の胸を愛の矢で射止なければならない。そんな焦りと緊張が、裕美に服を選ぶことを迷わせていたのだった。
特に悩むのはスカートだった。
“女”としての魅力を魅せるのだから、フレアスカートのようなフワフワしただけのスカートではノン・ノン! 女の子らしさは出せるかも知れないが、それでは大人の女としての色気も知性もあったものではない。“彼”の気を引く効果はゼロだろう。
「ああ、裕美さん、こんにちは」
その一言で終わってしまう。
何としても彼の心を揺らさなくてならないのだから、そんな無難な路線ではダメだ。
出来れば、ヒップラインを強調できるタイト・スカートか、脚線美を見せることができるショートパンツで決めたい。
裕美にだってスタイルに多少は自信があるし、それも満更、自惚れではないと思っている。
日本に帰って大学に入った時に、それまで続けていたバレエを止めてしまったのだが、それに伴って少々ボディ・ラインが緩んできたのが悩みの種だった。
しかしロードバイクを乗り始めてから、明らかにスタイルが変わった。
まずウェストが細くなった。
スカートを履く時に、多少ウェストが細くなった感触はあったのだが、当初痩せたという実感はなかった。と言うのも、体重自体は依然変化はなかったからだ。ビジネス用のタイト・スカートやジーンズを履く時もウェストは細くなっても、ヒップ周りは緩くなった感触がなかったので、最初はお通じが良くなったせいかな?ぐらいにしか思わなかった。
しかしお腹から下腹部にかけて、明らかに細くなったことに気付いた時に、ボディを鏡でチェックしてそのカラクリに気が付いた。
脂肪だけが落ちてる! 代わりに筋肉が増えたんだ!
意外にもバストのサイズも変わっていない。でもウェストからお尻、太ももにかけての脂肪が明らかに落ちている。ヒップのサイズが変わっていなかったのには、そこに筋肉が付いたからだった。
ロードバイクは下半身の筋肉、特に腰、臀部、大腿筋を主に使うスポーツ。ちょうどその部分だけが、脂肪が減って代わりに筋肉が付いていた。女性は男性と比べお尻や太腿に脂肪が付き易く、裕美も悩みの種ではあったが、その脂肪が綺麗な形で無くなっていた。
特にお腹の内臓脂肪が取れたことは効果絶大で、増えた筋肉に以上に脂肪が取れた結果、ウェストが引き締まり、お尻の筋肉が盛り上がることで、より凹凸のあるボディが強調されるようになった。
スタイルが良くなったことで、ボディラインを出す服を着ることが恥ずかしくなくなったし、今までちょっと諦めていた様な服も着れる様になった。ロードバイクによって得た思わぬ副産物であるが、女の子にとってこんな嬉しいことはない。“彼”に対して、これを利用しない手はない!
けれども裕美が、エッチな女の子の様に知性の欠片もなく、露骨に色気を振り撒く訳にはいかない。
全ての女神は美しさだけでなく、すべからく知性と上品さを備えているもの。
だからこそ世の男たちは理想の女性として、古来よりギリシャ神話の女神を讃え、キリスト教世界においては聖母マリアが常に敬われていた。それは今でも変わっていないと裕美は考えている。だから世の女性達は皆、華麗なデザインながらもロワ・ヴィトンのような上品なブランドに憧れるのだ。
ただ今日の様な休日でのカジュアルなパーティーでは、ロワ・ヴィトン・グループのファッションではちょっと浮いてしまう。TPOをわきまえブランドものはブラウスと靴だけに抑えた。結局スカートではなくショートパンツにして、カジュアルさを出すことにした。その代わりストッキングは履かず“生足”仕様で勝負するつもりだ。
作品名:恋するワルキューレ 第二部 作家名:ツクイ