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家族ごっこ【上】

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#7


 日野は呆然とする坂上の頭をぽんぽんと撫でてなだめ、家まで車で送ってくれた。御礼を言って門前で別れ、家に入ると、既に明美が帰宅していた。
 
「あら修一君、どうしたの?顔色が悪いわね」
 
 心配されていたたまれなくなった坂上は、明美に妊娠を打ち明けた。明美は喜び、「今日の夕食は私が作るわね」と言って坂上を休ませた。
  
「ただいま修一、僕達のベイビーができたんだってね!毎晩励んだかいがあったというものだよ!」
 
 やがて望が帰宅し、息を弾ませて坂上の部屋に現れた。
 坂上は「励んでません!」とつっこむのも忘れて、青白い顔で振り返った。
 
「……知ってました?綾小路さんが亡くなられたって……ひきにげだった、って」
「綾小路?誰だいそれ」
 
 坂上は耳を疑った。
 
「望さん、僕達の仲人の名前も忘れたんですか!?綾小路さんですよ、望さんのご友人の!!」
「……ああ、あいつね。そういえばそんな話も聞いたような気がするけど、どうも通夜とか葬式とか、ああいう辛気臭いのは苦手なんだ。そんなことより僕達のベイビー、楽しみだよ!」
「……」
 
 この人はおかしい。坂上はこの時はっきりと痛感した。
  
 その夜、坂上は無理をしないようにと家事をさせてもらえず、思いがけず自分の時間を持つことができた。特にこれといった趣味もない坂上は、引越ししてきて以来日々の生活に追われてきちんと整理できずにいた荷物を片付けることにした。まずはちょうど衣更えの季節だからと、服の整理から始めた。与えられた部屋には家具が揃っていたので、自分の家具は処分していた。重厚な木製の箪笥の引き出しを開けると、中から古い書類などが出てきた。前に誰かが使っていて、片付けるのを忘れていたのだろう。とにかく自分の服を入れるために中身をあけた坂上は、ぶちまけたものの中に一葉の写真をみつけた。
 
「これは……」
 
 そこには見知らぬ家族が写っていた。荒井家に家族構成が酷似しているが、こちらは息子がひとり多かった。何故他人の家族写真がこんなところにあるのだろうか?疑問に思ったが、よく見ると背景に写っているのは荒井家の屋敷だった。さらに、高校生くらいであろう娘の腕に抱えられている子犬──。
 
「ポヘじゃないか」
 
 離れた位置から撮られているため判別しにくいが、それはどうみてもポヘだった。坂上はしばらく考え込んでから、多分これはこの屋敷の前の持ち主の家族だろうと結論づけた。彼らは恐らく何か事情があって屋敷を手放さなければならなくなり、犬を飼えなくなったため、ポヘを日野に託して去ったのだ。その後荒井家が屋敷を購入したが、この部屋は物置として使っていたため、前の持ち主のものが残っていることに気付かなかったのだろう。坂上はとりあえずそれらを荷物が入っていたダンボールに入れ、服の整理を再開した。
 
 翌朝の目覚めはよくなかった。怠い身体を無理矢理起こして身支度をし、キッチンに向かうと、そこには既に明美がいて食事の用意をしていた。
 
「あ、すみません明美さん!用意は僕がしますから」
「いいのよ修一君。貴方は大事な身体なんだから、座って待ってなさい」
「……」
 
 妊娠しているのだという事実を思いだし、坂上の表情は陰った。
 食卓に家族が揃うと、話題は坂上のお腹の中の子供に集中した。
 
「家族が一人増えるなんて嬉しいわ」
「望も父親か」
「産まれるのが待ち遠しいよ」
「男の子かな?女の子かな?」
「僕は断然、修一似の女の子希望さ!」
「修一君、貴方はどっちがいいの?」
 
 家族の視線が一斉に坂上に注がれた。
 
「……元気で生まれて来てくれれば」
 
 妙な緊張を感じながら、やっとそれだけ答えた。
 
「そうだよね。子供は元気なのが一番だよ」
 
 友晴が話を合わせるように笑う。
 
「お、友晴、お前父親みたいな事言うな?」
「もしかして、隠し子がいたりして?なんてね、そんなわけないか!」
「ははは、やだなあ玲子姉さん、僕はまだ大学生だよ?隠し子なんているわけないじゃないか」

 途切れぬ笑い声、笑顔。共に笑いながら、坂上は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
 
【下につづく】
作品名:家族ごっこ【上】 作家名:_ 消