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斉藤君の殺人クラブ観察日記

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#9


「斉藤のお母さんから電話があってさ。心配だから探しに来たんだ。何事もなくてホントに良かった」
「そうだったのか。悪い、心配かけて」
 事情を説明しながらほっとしたように表情を緩ませる坂上の様子に、斉藤は胸がじんわりとあたたかくなるのを感じた。日野の視線は相変わらず不穏な光を放っていたが、坂上の存在があるだけで、やっとまともな世界に戻ってきたような心地がする。
 拝借した鋏は結局無用になったが、それを心底喜ばしく思った。
 
「けど、どうしてこんなに遅くまで残ってたんだ?綾小路さんも…斉藤と知り合いだったんですか?」
「あー、実は現像がうまくいかなくてさ。色々試して残ってたら、見回りの先生に罰掃除を言い付けられたんだよ。そしたら同じように残ってた綾小路先輩が手伝ってくれて。ね、先輩」
「あ、ああ。そうなんだ」
 我ながら苦しい言い訳だと思ったが、坂上は特に疑問も持たずに納得したようだった。ひとまず胸を撫でおろす。
 
 襲われた時の状態のままだった部室を軽く片付け戸締まりを済ませると、鍵を返却するために職員室へ向かう。新聞部の鍵を持つ日野と坂上、そして何の用もない筈の綾小路も、当然のようについてくる。
 
「そうだ。斉藤、先に家に連絡を入れた方がいいんじゃないか?お母さん、随分心配していたから」
 ちょうど公衆電話の前を通りかかり、坂上の提案に従う事にした。
 財布から取り出したテレホンカードを挿入し、受話器を耳にあてダイヤルボタンを押しながら、背後の会話に意識を向ける。
 
「……そういえば日野、図書室で風間が、向こうの階段の踊り場で荒井が寝ていた。掃除の途中だったから放っておいたが、起こしにいってやったほうがいい。君は彼らの友人だろう?」
「えぇ!?風間さんも荒井さんも、何でそんなところで……」
 
 
(一体何がどうなってんだ?)
 斉藤が外部と連絡をとろうとすることを想定して公衆電話が見える位置に隠れていた新堂は、思わぬ展開に戸惑っていた。
(何でここに坂上が……綾小路の奴までいやがるし。風間と荒井はあいつらにやられたのか?日野はどういうつもりで──)
 
 様子を視覚で確認しようと僅かに顔を出し、その瞬間に日野と目が合う。
「ああ気にするな坂上。よくあることだからな……綾小路、報告には礼を言うが、あいつらを起こす係は別にいるんだ」
 新堂を見つめたまま日野はそう言い切ると、綾小路に胡散臭い微笑を向けた。
 
(つまり俺かよ!)
 
 不甲斐なく獲物の返り討ちにあった風間と荒井を助け、速やかに撤収しろ──日野の意図を理解して、新堂はげんなりとした。
 面倒事をこちらに押し付けて、自分は坂上を家に送るつもりなのだろうと考えると、軽く殺意が芽生える。
 しかし命令を無視するわけにもいかない。逆らえば死あるのみ。日野は坂上以外の人を人と思っていないところがある。利用できるだけ利用して、役に立たなければ即座に切り捨てる、日野のそんな冷淡で残酷な姿勢が、新堂は嫌いではなかった。バラバラな個性を持つメンバーが殺し合わずに済んでいるのは、日野のリーダーシップの賜物だ。時々その言動が煩わしくもなるし、最終的には敵に回さねばならないのだろうが、今はまだその時ではない。
 
 新堂は舌打ちしたいような気分で、仕方なく腰を上げた。
 
 
 一方、斉藤がルールを無視して逃げ出そうと鞄を取りに来た場合に備え、写真部の部室で身を潜めていた岩下は、四人の気配が完全に移動するのを待ってから部室を出た。日野に預けられた合鍵で戸締まりをし、無言でその場を離れる。
 
(どうして私が福沢さん達に撤収を知らせなきゃいけないのかしら。私を伝令係に使うなんて、日野君はよっぽど死にたいようね)
 
 カッターナイフの刃を出しては引っ込める不吉な音が、しばらく廊下に響いていた。
 
 
 
 靴を履きかえて顔を上げると、やたらにこにこしている坂上と目が合った。
「……何だよ、ニヤニヤして」
「いや……笑わないか?」
「内容による」
「なんか……こういう風に日野先輩や綾小路さんと一緒に帰れるのが嬉しくてさ」
「ふーん?じゃあ俺と一緒なのは特に嬉しくもなんともないんだな?」
「なっ、そうは言ってないだろ!?もちろん斉藤と帰れるのだって嬉しいよ。最近部活でなかなか時間が合わなかったし……」
「……そうだな」
 確かに考えてみれば久しぶりなのだ。坂上が七不思議の特集記事を担当することになった時からお互いにバタバタしていて、それまでは毎日のように帰路を共にしていたにもかかわらず、ここ数週間は別々だった。
 
 斉藤は照れて俯く坂上の肩をやんわりと抱き、耳元で囁く。
 
「俺も、嬉しいよ」
 
 殺人クラブの存在を知り、一部とはいえメンバーの顔を見てしまった以上、昨日までの平穏な日々はもう二度と戻らないかもしれない。それでもいい。坂上の隣でその笑顔を見るためなら、何だって出来るような気がする。
 
(とりあえず、殺人クラブと綾小路先輩からお前の貞操を守り抜いてやるからな)