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斉藤君の殺人クラブ観察日記

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#4


 最初は気付かずに首を傾げるばかりだったが、やがて斉藤の耳にも近づいてくる足音が聞こえてきた。
 噂には聞いていたが、綾小路の嗅覚はやはり常軌を逸している。静まり返った夜の学校で、相手の立てる物音すら届かないほどの距離にありながら、その臭いを察知する事ができるなんて──。
 斉藤は改めて感心しながらも、一方では恐ろしさを感じた。斉藤の身体に付いた坂上の僅かな臭気を嗅ぎ分けた男。嗅がれる方にしてみれば、決して愉快なことではない。綾小路は何も言わないが、大川大介ほどでないにしろ、自分の体臭も彼に不快を与えているかもしれないのだ。
 
 そんな事を考えていると、綾小路がマスク越しに口を開いた。
「奇襲しよう。書架の影に隠れて、あいつが近くまできたらそのモップを突き出すんだ」
「中まで入ってくるとは限らないんじゃないすか?」
「誘き寄せればいい。わざと音をたてる」
「やり過ごすって手もありますけど」
「君が三時間逃げ切ったら、それで終わりだと思っているのか。あいつらはそんなに良心的じゃない。今ここで根を絶たなければ、手を変え品を変え襲ってくるだろう」
 
 この場を切り抜けることしか考えていなかった斉藤は、その言葉に反論できずに口を閉ざした。
 それを了承と受け取ったのか、綾小路はおもむろに書架から本を一冊取り出し床に落とした。
 それなりの音が辺りに響き、足音の主も聞き付けてやや歩を早め図書室に近づいてくる。
 じっと待っていると、やがて勢いよく扉の開く音がした。
 
「やぁ、伊藤君、いや遠藤君、それとも高藤君だったっけ?……とにかく隠れてないで出てくるんだね。ここにいるのはわかっているんだから」
 入ってきた男は、どれひとつかすってもいない間違った名前を呼びながら、ゆっくりと足を進めてくる。まるで、追い詰めた獲物を焦らし、いたぶるように。
 今から殺そうとする人間の名前もろくに覚えていないような奴が相手なのかと思うと、斉藤は憤りを覚えずにはいられない。
「僕に殺されるなんて、君、感謝するんだね。お金を払ってくれてもいいくらいだよ」
 誰が払うか。心の中で呟いた時だった。
「なんなら今一万円差し出してくれても……ッギャアァ!?」
 突然激しい物音がしたかと思うと、【敵】はそれきり沈黙した。
 
(な、何だ!?)
 
 綾小路と顔を見合わせ、恐る恐る顔を出すと、背の高い男が俯せに倒れていた。
 
「……何も無いところで転んだのか。風間らしいな」
 綾小路が呆れたように、そして少し安堵したように呟く。
「綾小路先輩のクラスメートだっていう人すか?」
 斉藤は一応モップで風間をつつき、完全に気絶しているのを確かめてから尋ねた。
「ああ」
「まさかこの人いつもこんな感じすか」
「…………肝心なところで抜けているのは、まあ事実かもしれないが」
 たっぷり数秒の間をおいて、綾小路は苦笑する。そして、
「……こいつはたまたま自滅してくれたが、油断は禁物だ。他のやつらはこういうヘマはしてくれそうにないからな」
 こんなものなのかと拍子抜けしていた斉藤にすかさず釘をさした。
 
「で、こいつどうします?」
「とりあえず縛っておこう」
 綾小路は机に掛けていた鞄から縄を取り出すと、手際よく風間を縛りつけた。
「……何でそんなもの持ち歩いてるんすか?」
 まさかそういう趣味なのかと顔を引きつらせる斉藤に、綾小路は焦ったように弁解した。
「大川対策だ!何かの役に立つかもしれないと……」
「……」
 ただの予防策にしては、随分と慣れた手つきだったが。疑念を深める斉藤の目つきに居た堪れなくなったのか、綾小路は冷や汗を垂らしながら顔を背ける。
「そ、そんな目で僕を見るな!」
「冗談すよ」
 必死に否定する奴ほど怪しく見えるというのは本当なのだと斉藤は思った。
 
「今の物音で、他の連中もこっちに向かってんじゃないすか?」
「ああ、複数の臭いが近づいて来ている」
「この人を差し引いても相手は六人……二対六じゃ明らかに不利だ。ここは逃げた方がいいんじゃ?」
「そうだな。潰すならひとりずつがいいだろう」
「じゃあ臭いを避けて移動しましょう。何処がいいかな……」
「講堂はどうだ?あそこなら広いし隠れやすい」
「そうっすね。でも、綾小路先輩も武器を調達した方がいいんじゃないですか?」
「武器なら、さっき風間の懐からこれをみつけた」
 そう言って綾小路が構えたのは、普通に生きていればドラマや映画でしか目にすることの無い代物だった。
「それって……オモチャじゃ……」
「正真正銘、本物だよ。撃ってみるか?」
「いえ……弾もったいないすよ」
 
 事態は一気に現実味を帯びる。
 命が脅かされているということを、斉藤は改めて実感した。