いつも通り
ずっと家にいればいつもどおりに過ごすことは簡単だ。
でも、外に出れば全然違う世界が見えてくる。
そんな気がした。
少なくとも俺は・・・
「俺の名前は、参道義和だ!」
その声が響き渡るのは、俺の教室。
つまり薩摩川中学高の教室の中。
「おまえ、いつもいつも、俺の名前を間違えやがって!」
俺は喧嘩をしている。
目の前にいる坂口宗助と。
「あんたが変な名前してるから間違うんだろ?」
「俺の名前は関係ない。お前が覚えないからだ!」
この喧嘩はいつも通り。まだいつも通りだ。
だけど今日は何かが違った。何かが・・・
この喧嘩は一つの音によって終わりを告げる・・
キーンコーンカーンコーン・・
そしてみんなは少しずつ席についていく。
俺も席に着く。
教室の中に先生が入って来る。
起立、例、着席。
それを言った後に先生が口をあける。
「今日は坂口のお別れ会をする。」
俺は先生の言葉を疑った。
みんなはやけに普通だった。教室の中は授業中のように静かだった。
俺は一瞬で知った。何が違ったのかが、一瞬で・・
俺は口をあけた。
「坂口、何で言ってくれなかったんだ?」と
わかってたくせに。自分の中でその言葉がよぎる。
「いや、言ったらうるさくなるからだよ」
坂口は普通の顔で言った。
「そうか。そうだよな。俺うるさいもんな。あはは・・・」
「そうだよ」
また授業中みたいに静かになった。
その沈黙を先生が打ち破る。
「では、お別れ会を始めます。」
することはまだ決めてはいない。
「みんなは何がしたい?」
先生が言った。
みんなはいろいろなことを言って騒ぎまくっていたが、俺と坂口はその中に入っていなかった。
俺の机に坂口が近寄ってきた。
「ごめん。自分の口からは言えなくて。」
「どういうこと?」
「昨日お前学校休んだだろ。その時に先生がみんなに言ってたんだ。」
「だからみんな静かだったのか・・」
「ほかに静かになる理由、ないだろ?」
「それもそうだ。はははははははっ」
「あははははははっ」
坂口は言った。
「最後に笑って別れられてよかった。ありがとう。」
「こっちもだ。」
俺と坂口は笑いながらみんなの中に入って行った。
しばらくしてすることが決まったようで、しだいに静かになっていった。
みんなはいすを並べていった。することはいす取りゲームだ。
鬼は坂口になった。
そして「俺の親友・・・」と言った。
一人だけ立った。
当然俺が立った。
坂口が俺の座ってたところに来るときすれ違ったら、泣いているのがわかった。
すれ違い時に坂口が「本当にありがとう」と言った。
俺は「あぁ」とだけ答えた。
そしていす取りゲームが終わると、おれはすごく悲しくなった。
今まで感じたことのない悲しさがこみあげてきた。
もう終わりか・・と感じた。
俺は泣きながら坂口を見送った。
坂口も泣いていた。
坂口は車で帰って行った。
俺は車にめちゃくちゃ手を振った。
坂口も窓から顔を出して手を振ってくれた。
俺は言った。
「次の学校でも頑張れよー」
「わかってるわー」
「また会おうぜー」
「ああー。またなー」
坂口は行った。
また会えるという希望を胸に抱えて。
これはいつも通りではない俺の日常。
それから、毎日のようにいつも通りが続いたのは、また別の話。
終わり・・・・・・