31秒間の
エピローグ
一秒前に、僕は自分の人生を呪った。
コンクリートが焼ける香りが鼻腔をくすぐっている。地べたに不格好に横たわる僕は、眼前に転がるすでに自分の足ではないであろう物体を冷静に観察していた。異常なまでの関節運動が、11秒前では成し得ないであろう角度で血みどろの足を僕の眼前にさらしている。履き潰されたスニーカーとお気に入りのソックス、そして19秒前まで僕の体重と期待と未来を背負っていたものが、今まさに血まみれで転がっている。焼けたコンクリートに鮮血が染みて、「あぁ、夏なんだな」と、不意に思い起こした。
この夏は僕にとって特別な夏になるはずだった。だから多くの労力と時間を費やして、周囲の期待とそれに応えられるだけの力をつけてきた。
でも、それは27秒前までの僕。
物思いにふけったせいか、頭を刺すような鋭い頭痛。それを首切りに、霞んでゆく眼前の景色。30秒前まで希望の光で満ち溢れていた僕の人生は、ここで暗転。ここで舞台は突然なまでの急な幕引き。
人生というものを理解できる年齢ではない。それでも僕は、今まで注いできた情熱と、流してきた汗と、費やしてきた時間を、一瞬で無に帰すこの世界を、幼いながらも僕は途切れ行く意識の中、静かに呪ったのだった。
そう、この31秒間で僕は世界に見捨てられたのだと確信した。