うそみたいにきれいだ
8月24日 ピンポンパール
(オオカミ店長と雪丸さん)・すいれん鉢
・めだか
・めだかのえさ
メモするまでもなかったメモを片手に、休み明けのくたびれたホームセンターへ。
夏も終わりかけのこんなタイミングでぜんたいどうしてスイレンなのでしょう、それは盆休みふりかえをとって帰省した店員二名が、ふたりしてお寺の観音像にへんな方向へ感化されてきたからである。
盛り上がる彼らにハスは無理だよと言った時の顔を最高画素数で記録して全世界へ配信したいです。
持ち運ぶには重すぎる鉢を園芸用品売り場のおばちゃんに預けたのち、うきうきとペットショップへ向かうでかいやつの後ろつきを追いかける。
小型犬のなやましい声がして、案の定ふらりと誘引されるそいつの腰を背後からひっ掴んで軌道修正した。
「なんだなんだ」
「あっち向くんじゃありません。目合わしたら終わりだかんな」
「ああ。そうだね、大上さんアイフルしたら際限なさそうだもんね」
「うるさいわよ。つうか俺じゃねえ」
「あ、でも番犬いてもいんじゃないの?」
「とられるようなもんねーだろ」
「えー」
名残惜しげにケージの一角を見やるのにほらお魚さんでもしばいてなさいと命じておいて、立ちならぶ水槽をまっすぐに横切った。
横目に極彩色がちらちら反射するけれど、用があるのはいちばん色のないやつなんだなとふと思って、あらまあ詩的で恥ずかしい。
魚のごとく目をした不健康そうな店員に健康そうなめだかを選定してもらうあいだ、まるでマス席の水槽群を眺めた。平和な顔をしたなまずと目が合う。
地震がきたら、どうしましょう。
巨大なアロワナの水槽に背後をとられた上に正面の水槽にぴったりと顔をよせてぼんやりしているこいつはまず助からないでしょう。
「うりゃ」
「わあびっくりした。あれ、めだかは」
「オーディション中」
「そうか」
「何見てんの」
「これ、」
「……なんだこの丸いの」
丸いのがたくさん浮かんでいる。
浮かんだり沈んだりしている。
よく見るとひれがついている。
金魚だった。
「なんかすんごい一生懸命なんだよね」
「おい進んでねえぞこれ。ひれ超動いてるけど」
「ねえ。やっぱり金魚がいいよ。金魚にしようよ」
「駄目」
「なんでだ。すみれちゃんも控えめに主張してたじゃん、金魚が……いいなあ……って」
「だあめだっつの。ゆで金魚になってもいいのかおめーは」
「……はっ」
お花屋さんのワンポイントアドバイス、スイレンはなるべく日当たりのよい場所に置きます。庇の下とはいえ店頭据え置きの環境だもの、めだかが限界である。
キンメダイの煮付けを想像しちゃったとしょぼくれる肩を尻目に支払いを済ませて、めだかと領収書を受け取った。
わた菓子の袋のようにふくれためだか入り袋をわた菓子の袋の中身のような頭の上にのせてやると、首をすくめてもがもが言った。
「あ、あぶね、あぶないよ」
「今度の縁日行くか」
「へ、」
「……金魚みたいな顔だね君」
そのタテにぱくぱく開閉している口なんか、特にそっくりだね。
かくして俺は、めだかのえさを買い忘れたことに思い当たるのである。
作品名:うそみたいにきれいだ 作家名:むくお