laughingstockーroi3-
一人の人形師がいました。人形師は寂しくて1対の人形を作りました。
一人は人形師に従順なお人形、もう一つはまったく言う事を聞かず、動かない人形。
従順なお人形は動かない人形に話しかけます。
どうして動かないの?主人が呼んでいるのに。
そう訊くと、初めて人形は返事をしました。
僕はそんなことがしたいわけじゃない。
じゃあなにがしたいの?と人形が聞きました。しかし、もう答えは返ってきませんでした。
何十年もして、人形師は年老いて起き上がることもできなくなりました。
もう一つの人形は主人が年老いて命尽き果てる前に、動きだして彼の傍にいきました。
人形師は驚かず、彼の頭を撫でました。
ありがとう。わたしのねがいを叶えてくれたね。
従順なお人形は驚いて、後で彼に問いかけました。
きみは何をしたの?と。
お人形はこともなげに答えました。
僕は彼の本当の願いを叶えただけだよ。と。
人形師は誰にも看取られずにしぬことをずっと怯えていましたのです。
どうして分かったの?と聞くと、彼はにこりと微笑んで言ったのでした。
君が主人の傍にずっと一緒にいてくれたからだよ
何処かの城の地下にはそれはそれは綺麗なお人形が硝子柩の中に入っているそうです。
その人形は2つで一つの人形で、大切な物を護っていると言われています。
蔦の文様と鷹の文様の絡まった柩を探して御覧なさい
こわくない。やさしい顔の人形が眠っているはずだから
「あれ・・・?」
少年とその祖母らしき者が話す物語を聴きながら、青年はふと何かを考えるように眉を寄せた。
懐かしい気持ちを覚えさせる話だった。聞いたことなんてないのになぜだろうと。
旅を初めていろいろな事があった。piello達の姿が見えなくなった時もあったのに、いつまでも見え続ける自分に不思議な気持ちになる。
友人が忘れないように細工でもしたのだろうかと思わず笑ってしまいそうになる。
奇異な友人はもう青年の前に現わさないことも知っていた。
「・・・なんでだろう。とても胸が苦しい」
大事な事を失くしてしまって思い出せないように切迫する気持ちに胸を抑える。
空を見上げる。そこはよく晴れて雲ひとつない空で―
作品名:laughingstockーroi3- 作家名:三月いち