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laughingstock 2-3

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2章3 Soldato


 リーフはくるりとキアラの方に向き直り、おどけた様子で問い掛ける。

「決まったかい?」

 回答は分かっていながら聞く。

「・・・その条件、飲もう」

 案の定想像通りの答えにリーフはにこりと笑った。キアラは疲れた様子で空中で手を振る。
 そうすると彼の包帯の上に自分のウサギとは別に薔薇の飾りが縫い付けられたウサギが現れる。
 久方ぶりに見る姿にリーフはいつもの笑みを浮かべる。

「久し振りだね。ウサギ。さっきまでそこで聞いていただろう?
 僕と組む事になったからよろしく」

ウサギから感じられるのはそこはかとない嫌悪だ。リーフはそれをいつも嫉妬、と呼ぶ。

(あれからだいぶ経つのに本当に変わらない)

自分も同様だ。側に居ないから忘れているけれどこのウサギとの駆け引きを愉しいと感じる。そして徹底的に壊したいと思う。
 見た目がウサギでなければリーフはとっくにこのウサギを壊している。
 リーフだとて自分の感情を抑えているのだ。この残虐さを。
 それも相手と同じく勿論嫌悪から来ているのだが目先の事に囚われては自分達の仕事は終わらない。
 キアラがリーフのウサギと話しているのが聴こえる。
 自分達は会話が彼らと成り立つ。彼らは言語として口から発しないが直接脳や肌で伝えてくるのとpielloは皆そういう感覚に優れているというところがある。

「リーフは凄いな。どうしてアイツと組む事があんなに楽しそうなんだ。
 ・・・執着してる?アレに?・・・本当に物好きなんだな」
「キアラー、これで良いよね。情報を頂ける?」 
 
あまり楽しくない会話を繰り広げているであろう二人にリーフは苦笑して意識を戻させる。

「あ、ああ・・・。とりあえずユージンとレイナスの事を訊きたいんだよな」
「うん」
「あの二人は幼少からの友達らしい。騎士っていうのは他の子と遊んだりしないものだが、レイナスの父が昔から心臓を患ってたせいでユージンの父親が診て たらしくユージンもついていっていたらしいな。その時からレイナスとは仲が良かったらしい。
 レイナスは此処の領主に預けられたらしいが此処は元々ユージンの故郷でな。ユージンの父はこの街からレイナスの父のいる街に通っていたらしいな。
 ああ・・話がずれたか。レイナス自身がかなり真面目というか融通が利かない奴だったらしく領主に嫌われているらしい」
「嫌われている?」

 リーフが眉を顰める。先程自分が見てきた様子では領主が彼に執着しているように見えた。必死で此処に留めようとしているように。
 キアラは頭を振ってそれを否定する。

「ああ。相当嫌がらせを受けたらしいぞ。その治療をよくユージンがしていたらしい。
 だが、レイナスはそれでもずっと耐えていたらしいな」

 これで終わりというようにキアラが口を噤む。名も無きウサギは微動たりせずキアラの方を見ていた。

「・・・キアラ、3日後にレイナスが仕えたいといっている伯は誰だい?」
「・・・此処の領主だ」
「嫌がらせをされていたのに?彼だってレイナスを必要としていないんじゃないのかい」
「此処から先は・・俺の依頼人の依頼に関わる事だからあまり話したくはない。すまん。
 レイナスはずっとそう要望を出している。その承諾を待っている途中だ。・・・もういいか」
「ありがとう。キアラ。助かったよ。ウサギ、飛んで」

(此処まで・・・か。残りはこっちに訊くしかなさそうだ) 

 リーフはキアラのウサギの腕に掴まり、二人を置いて次の瞬間空間に溶け込んでいった。
 
 残されたのは名も無きウサギとキアラ。
 キアラは一つ溜息をつき、今まで顰めていた顔をようやく解いた。そしてそのまま空を仰ぐ。名も無きウサギがそれに従うように一つ分離れて立つ。名も無きウサギはやはり言葉ではないが自分の言いたい事を彼に伝えた。
 今の説明ではリーフが納得していない事、情報という程ではないではないかという事。
 それを伝えて改めて自分はリーフのウサギでしかない事を恥じた。今はリーフに言われてキアラのウサギで在らなければいけない。
 その様子を読み取ったのであろうキアラが気にするなというように腕に触れてくる。

「・・・ああ。言っていない事はまだある。けれどリーフなら気がつくだろう。
 俺が言いたくなかっただけだ。・・・アイツの前で」

キアラが言う相手はリーフではない。呟く彼は普段の彼の温和な気配はなく、苦悩する者のそれであった。
 彼を苦しめ続ける相手を替える事はウサギが壊れるかキアラがこの仕事を辞めるかしかない。
 だからこそキアラは苦しむのだろう。時間という観念の無い世界に生きる自分達は未来永劫このままなのだから。
 しかし名も無きウサギは疑問を持つ。このような事をリーフの側で自分が考えた事がなかった事を。
 普通、考えてもいいはずだった。自分達の道の先を。
 彼の側に居ると今動く事しか考えていない気がする。終わりなど見る事はないとばかりに彼は生きている。
 キアラやエレナと違って螺子で動いているのに何処までも人である事に違いは無いのだ。

「リーフから引き離して悪かったな。早く仕事を終わらせるようにするよ。
 だから、協力してくれ」
 
はっと思考の海から引きずり出されて名も無きウサギは慌てて頷き、キアラの手を取って空間に消えた。

続く。
作品名:laughingstock 2-3 作家名:三月いち