laughingstock 2-2
2章2 betsuratores
青年が館を出て城下町まで馬を走らせている姿を見ながらふわりと身軽に移動するウサギに片手でしがみついていたリーフはウサギの胸元から見える紙を手に取り、開く。
(依頼書・・・)
『息子の幸せを願い、いつか私を越えるために選んだ道だった。だがそれが裏目に出てしまった。
このままでは息子は以前から手紙で言っていた者の元では無くもっと過酷な者の元へ仕官しに行かされてしまう。
私の身体は日毎に動かなくなるばかりだ。最近は口を上手く動かせない。
息子が何故その領地に拘っているのかは何となく予想がつく。
本当はどちらにもいかせたくはない。しかし私が息子に関与し続けることはできない。
私はこれを書きながら迷ってもいる。どうか来てほしい。
貴方達が来ることで私は決断ができる。シュベルツ』
「・・・何回読んでも要領の得ない依頼書だねぇ。僕らに逢ったとしてもあんな状態だ。決断なんて聞けなかったよ。
ただ、強い願いだけだ」
瀕死の身体を動かしてリーフに伝えようとしていた。
やがて青年は一つの小さな家の前に止まり、扉を叩いている。それを遠めに見ながら、ふと自分に近い気配を感じる。リーフはウサギの腕に掴まっていた手を離して屋根に降り立つ。周囲を見渡しても何の姿も無い。
背後から不審そうな自分のウサギが姿を現す。それを押しやりながら小さく叫んだ。
「姿を隠してな。同僚がいる」
ウサギが空間に消えたのを見届けて自分は帽子を外して屋根から降り、家の影に隠れる。
小さな街医者の家でそこから騎士の青年の声と温和な青年の声が聞こえてくる。
「・・・父が亡くなった」
「お父上が!?何故・・・」
リーフがそっと窓から覗き見ると金髪の街医者なのだろう。青年とそう変わらない年齢の青年が椅子に座っている。
狼狽した様子を隠せずにいる彼に騎士は沈鬱な表情を浮かべている。
「・・・心を病んでいたと。一体あの父を何がそこまで追い詰めたのか・・・」
「自殺ということかい・・・?」
騎士は頷く。
「ユージン、父にいつも薬を持って行っていただろう?ユージンの父が作って昔から俺の父が服薬していた。
あれは一体何の薬だったんだ・・・?」
ユージンと呼ばれた街医者は一瞬言葉に詰まり、視線をそらして応える。
「・・・睡眠薬と心臓の薬だよ」
「睡眠薬・・・」
「不眠症らしいんだ。だからずっと父は処方していた。10年ほどずっとだ」
「10年・・・」
今まで知らなかったらしく呆然としている。それを見てリーフは一つ溜息をついた。
「・・・では父は最近はどうだった?体調不良を訴えていたか?」
「・・・身体が動かないとよく訴えていたよ。その訴えを聞き取るのも最近は難しくなっていた」
「何故・・・何故だ」
「レイナス、気持ちは分かる。でも君は周りから期待されている騎士だ。いや3日後になるんだ。
今はその事だけを考えて。お父様の為にも」
「・・・分かっている!それに約束も必ず果たす」
顔を顰めてリーフは聞き耳を立てるのをやめた。先程から消えていた同僚の気配がし始めたのだ。
多分自分と同じく彼らの会話を聞いている。
リーフは人間の気配というよりウサギの気配を見分ける。さっきから自分のウサギではない者の気配が纏わりついているのだ。
(気配を消すのが下手なウサギ・・・)
ウサギの気配が巡回するように消えたと思うと、騎士の青年ーレイナスは帰っていった。
それと同時にユージンしかいないはずの家の中に気配が生まれた。
「・・・それでいいのか」
その声に慌ててリーフは確実に見えないように屈む。
何てタイミングであるのか。最悪な状況だった。
「?おかしな事を聞くpielloですね。悪魔の遣いなら悪魔の遣いらしく在ればいいのに貴方はとても人間らしい」
「・・・契約は続行だな?」
「勿論です。私は貴方達を使うために依頼書を出したのですから」
「ああ。なら3日後の夜此処で逢おう」
そういってpielloは姿を消す。
リーフは顎を押さえ、何かを思考する様に黙り込む。その上の空間からウサギが姿を現した。
その姿を視界にいれ、リーフは背後の家を振り返る。
「・・・詰まらない結末になりそうだ」
リーフは街医者のユージンの家からpielloが出ていくのを見計らって姿を現した。相手のpielloは自分の知己であり、相手も同様なため何も言わずに彼の元へ歩み寄る。
相手は気配に気付きこちらを見て驚いているようだが、リーフはよくある事だった。
リーフはいつも通りの笑みを見せて挨拶の為に軽く手を挙げた。
「仕事?キアラ」
「・・・リーフ?何故此処に」
茶髪で癖毛の青年―キアラと外界で逢うのは初めてではない。しかし前はかなり昔だったはずだった。あの時も依頼人が関係しあっていて色々と思惑が絡まったものだ。何より彼は爆弾を抱えている。
周囲を見回し、手甲を嵌めた手で前髪を乱す。リーフは比較的明るく答えた。
「僕も仕事。此処の人と関わりがあるらしい依頼人でね。
色々手当たり次第に調べていると君に逢った。偶然だね」
「・・・まさか、またか?」
キアラも以前の事を思い出したのだろう。途端に嫌そうな顔をして壁に凭れかかる。
「依頼人は・・・っと聞かない方がいいか?」
「以前は聞かなかったね」
リーフが答えると思案するように黙り込む。
「・・・答えてはいけないという制約はない。以前それでお前もだろうが難儀しただろう。
情報の交換はするべきだ。俺の依頼人は一癖も二癖もある男だしな」
キアラの言葉にリーフは腕を組み、うーんと唸る。背後に自分のウサギが姿を現したのを感じたが、キアラは久し振りに見たらしい自分のウサギに驚いた様子だった。だがすぐ視線を逸らす。
「情報の交換は必要だね。僕もレイナス君とユージン君の事がよくわかっていないんだ」
「いいぜ。お前は結局何を知ってる?」
「それが全然知らないんだ。依頼人の願いもこっちが決める状況でね。本当何でも情報が欲しいくらい」
そういうとキアラが目を丸くして、言葉を失ったようだった。リーフは困った顔でそんなキアラを見上げる。
「困ってるんだ。だから取引しない?」
「取引?」
「僕があのウサギの事引き受けてあげるよ。キアラはその間に自分の仕事を済ませたらいい」
これが一番キアラに効く言葉だった。自分のウサギをキアラはまったく良く思っていない。傲慢でキアラの手が離れた瞬間暴走する。
リーフもさすがに梃子摺った記憶がある。しかし自分は仕事の為なら何だって使うのであまり気にしてはいない。
キアラは案の定動揺しているようだった。否定しようと口が動くがそれが外に出てはこない。
「その分空間転移ができなくなるから、代わりに僕のウサギを連れて行っていいよ。
ちょっと困った性癖はあるけど最近は滅多に出ないから。
何より分別はできてるからキアラ、一時的に少し休んだらいい」
「・・・」
瞼を下ろし、眉を顰めたまま動かなくなったキアラを考えていると勝手に決めつけ、自分のウサギを振り返る。
青年が館を出て城下町まで馬を走らせている姿を見ながらふわりと身軽に移動するウサギに片手でしがみついていたリーフはウサギの胸元から見える紙を手に取り、開く。
(依頼書・・・)
『息子の幸せを願い、いつか私を越えるために選んだ道だった。だがそれが裏目に出てしまった。
このままでは息子は以前から手紙で言っていた者の元では無くもっと過酷な者の元へ仕官しに行かされてしまう。
私の身体は日毎に動かなくなるばかりだ。最近は口を上手く動かせない。
息子が何故その領地に拘っているのかは何となく予想がつく。
本当はどちらにもいかせたくはない。しかし私が息子に関与し続けることはできない。
私はこれを書きながら迷ってもいる。どうか来てほしい。
貴方達が来ることで私は決断ができる。シュベルツ』
「・・・何回読んでも要領の得ない依頼書だねぇ。僕らに逢ったとしてもあんな状態だ。決断なんて聞けなかったよ。
ただ、強い願いだけだ」
瀕死の身体を動かしてリーフに伝えようとしていた。
やがて青年は一つの小さな家の前に止まり、扉を叩いている。それを遠めに見ながら、ふと自分に近い気配を感じる。リーフはウサギの腕に掴まっていた手を離して屋根に降り立つ。周囲を見渡しても何の姿も無い。
背後から不審そうな自分のウサギが姿を現す。それを押しやりながら小さく叫んだ。
「姿を隠してな。同僚がいる」
ウサギが空間に消えたのを見届けて自分は帽子を外して屋根から降り、家の影に隠れる。
小さな街医者の家でそこから騎士の青年の声と温和な青年の声が聞こえてくる。
「・・・父が亡くなった」
「お父上が!?何故・・・」
リーフがそっと窓から覗き見ると金髪の街医者なのだろう。青年とそう変わらない年齢の青年が椅子に座っている。
狼狽した様子を隠せずにいる彼に騎士は沈鬱な表情を浮かべている。
「・・・心を病んでいたと。一体あの父を何がそこまで追い詰めたのか・・・」
「自殺ということかい・・・?」
騎士は頷く。
「ユージン、父にいつも薬を持って行っていただろう?ユージンの父が作って昔から俺の父が服薬していた。
あれは一体何の薬だったんだ・・・?」
ユージンと呼ばれた街医者は一瞬言葉に詰まり、視線をそらして応える。
「・・・睡眠薬と心臓の薬だよ」
「睡眠薬・・・」
「不眠症らしいんだ。だからずっと父は処方していた。10年ほどずっとだ」
「10年・・・」
今まで知らなかったらしく呆然としている。それを見てリーフは一つ溜息をついた。
「・・・では父は最近はどうだった?体調不良を訴えていたか?」
「・・・身体が動かないとよく訴えていたよ。その訴えを聞き取るのも最近は難しくなっていた」
「何故・・・何故だ」
「レイナス、気持ちは分かる。でも君は周りから期待されている騎士だ。いや3日後になるんだ。
今はその事だけを考えて。お父様の為にも」
「・・・分かっている!それに約束も必ず果たす」
顔を顰めてリーフは聞き耳を立てるのをやめた。先程から消えていた同僚の気配がし始めたのだ。
多分自分と同じく彼らの会話を聞いている。
リーフは人間の気配というよりウサギの気配を見分ける。さっきから自分のウサギではない者の気配が纏わりついているのだ。
(気配を消すのが下手なウサギ・・・)
ウサギの気配が巡回するように消えたと思うと、騎士の青年ーレイナスは帰っていった。
それと同時にユージンしかいないはずの家の中に気配が生まれた。
「・・・それでいいのか」
その声に慌ててリーフは確実に見えないように屈む。
何てタイミングであるのか。最悪な状況だった。
「?おかしな事を聞くpielloですね。悪魔の遣いなら悪魔の遣いらしく在ればいいのに貴方はとても人間らしい」
「・・・契約は続行だな?」
「勿論です。私は貴方達を使うために依頼書を出したのですから」
「ああ。なら3日後の夜此処で逢おう」
そういってpielloは姿を消す。
リーフは顎を押さえ、何かを思考する様に黙り込む。その上の空間からウサギが姿を現した。
その姿を視界にいれ、リーフは背後の家を振り返る。
「・・・詰まらない結末になりそうだ」
リーフは街医者のユージンの家からpielloが出ていくのを見計らって姿を現した。相手のpielloは自分の知己であり、相手も同様なため何も言わずに彼の元へ歩み寄る。
相手は気配に気付きこちらを見て驚いているようだが、リーフはよくある事だった。
リーフはいつも通りの笑みを見せて挨拶の為に軽く手を挙げた。
「仕事?キアラ」
「・・・リーフ?何故此処に」
茶髪で癖毛の青年―キアラと外界で逢うのは初めてではない。しかし前はかなり昔だったはずだった。あの時も依頼人が関係しあっていて色々と思惑が絡まったものだ。何より彼は爆弾を抱えている。
周囲を見回し、手甲を嵌めた手で前髪を乱す。リーフは比較的明るく答えた。
「僕も仕事。此処の人と関わりがあるらしい依頼人でね。
色々手当たり次第に調べていると君に逢った。偶然だね」
「・・・まさか、またか?」
キアラも以前の事を思い出したのだろう。途端に嫌そうな顔をして壁に凭れかかる。
「依頼人は・・・っと聞かない方がいいか?」
「以前は聞かなかったね」
リーフが答えると思案するように黙り込む。
「・・・答えてはいけないという制約はない。以前それでお前もだろうが難儀しただろう。
情報の交換はするべきだ。俺の依頼人は一癖も二癖もある男だしな」
キアラの言葉にリーフは腕を組み、うーんと唸る。背後に自分のウサギが姿を現したのを感じたが、キアラは久し振りに見たらしい自分のウサギに驚いた様子だった。だがすぐ視線を逸らす。
「情報の交換は必要だね。僕もレイナス君とユージン君の事がよくわかっていないんだ」
「いいぜ。お前は結局何を知ってる?」
「それが全然知らないんだ。依頼人の願いもこっちが決める状況でね。本当何でも情報が欲しいくらい」
そういうとキアラが目を丸くして、言葉を失ったようだった。リーフは困った顔でそんなキアラを見上げる。
「困ってるんだ。だから取引しない?」
「取引?」
「僕があのウサギの事引き受けてあげるよ。キアラはその間に自分の仕事を済ませたらいい」
これが一番キアラに効く言葉だった。自分のウサギをキアラはまったく良く思っていない。傲慢でキアラの手が離れた瞬間暴走する。
リーフもさすがに梃子摺った記憶がある。しかし自分は仕事の為なら何だって使うのであまり気にしてはいない。
キアラは案の定動揺しているようだった。否定しようと口が動くがそれが外に出てはこない。
「その分空間転移ができなくなるから、代わりに僕のウサギを連れて行っていいよ。
ちょっと困った性癖はあるけど最近は滅多に出ないから。
何より分別はできてるからキアラ、一時的に少し休んだらいい」
「・・・」
瞼を下ろし、眉を顰めたまま動かなくなったキアラを考えていると勝手に決めつけ、自分のウサギを振り返る。
作品名:laughingstock 2-2 作家名:三月いち