恋風
茶色がかった細くてさらさらした肩までの髪をふわりと揺らし、アーモンド型をした猫みたいな二重を眩しそうに細めて緩やかに笑うちはるはやっぱりほわほわしていて、同性のわたしから見ても可愛いなあと思う。
かわいい、はる。わたしは、かわいくないけど。
なのにわたしのことをはるは可愛いと言って、わたしを好きだと言う。親友、と、言うのだ。
こんなにかわいいはるが、なんでかわいくないわたしを親友に選んだのか。なんでわたしを好きだと、言うのか。ねえ、わたしには分からないよ、はる。
「わたしも、はるのこと、すき」
風が吹いて、ひとつに縛った黒髪が、頭の後ろでふわふわ揺れた。
もう四時なのに、学校からの帰り道の空はまだ蒼い。天を仰げば青の上に白い絵の具を零したような造りものみたいな雲が浮いている。青と白は主張し合って、どちらも本物の空と雲でないような錯覚を感じた。
「それは、しんゆう、と言うこと?」
少し下から表情をじいと窺われて、少しばかり狼狽する。
いつものほわほわにこにこしたはるじゃないみたいに、見詰めるその瞳があんまりにも真剣だったから。
「――そ、う、わたしたち、しんゆう、でしょう?」
わたしを見詰めるその少し茶色がかった瞳には当たり前だけれどわたしが映っていて、たぶんはるの瞳の中のわたしの黒い瞳もはるを映していて、そのわたしの瞳に映るはるもわたしを映していた。
見詰めて、見詰められて、瞠られて、瞠て。
わたしたちの間だけ時間が止まった、ような、そういう。
「しんゆう、って、何かなあ。親愛なるともだち?近しい友達、心安い、気安い、仲良しとか、気が置けないとか、」
ええと、他には、と、色んな言い方を考える、はる。
そういわれて見ると、しんゆう、って、どういう意味なのか分からない。
「とにかく、きっと、ともだち、という定義は変わらなくて、ええと、でもね、」
一生懸命に言葉を紡ごうとするはるに向かって、また、風が吹く。
太陽が反射して茶色い髪がちかりと輝き、風ではるの前髪が後ろに飛ばされた。
「近しいとか、じゃなくて、わたしみやちゃんのこと、恋しいよ」
猫みたいな目が真っすぐにわたしを見ていて、わたしもその猫みたいな目を見詰めていて、アーモンド型の瞳の中にはわたしが映っていて、わたしの黒い瞳の中にははるが映っていて、わたしの瞳に映るはるの瞳にもわたしが映っていて、はるの瞳の中のわたしもまたはるを映していて、風が、ざあ、と、吹く。
「ねえ、みやちゃん、」
すきよ、と呟くはるの声は小さかったからきっとわたしにしか届いていなかった。最初から周りに人なんて居ないから、どうせわたしにしか届かないのだけれど。
そうしてまた、夏の乾いた風がわたしたちを撫ぜる。