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無題

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朝、耳元で鳴り響く機械的な音に飛び起きた。昨晩だって寝るのが遅かった。寝れなかったのではない、寝なかった。寝てしまうのが怖かった。ぼんやりと霞む思考をやんわりと働かせる。
その間にも容赦なく鳴り続けるバイブの振動を伴った機械音に、漸くそこでその元凶を手に取り手ごろなボタンを押す。手に馴染んだそれは途端に大人しくなった。
飛び起きたとはいえ、瞼が重い。まるで離れるのを怖れるように離れたがらない。決死の思いで手元を操作し届いた言葉を読む。中止…それだけ理解できた。普通なら残念に思うところだろうか?…ああ、でも自分は今、その言葉に酷く安堵している。今は独りにして欲しい。瞼が痛い。もう一人に連絡しなくては…ぼんやりと霧が掛かったままの重くどんよりとした思考がそこで再び途切れた。
次に目が覚めたのは、愛しい音だった。大好きな人だけに鳴らせる音。今度はさほど間を空けずに音を止めた。もっと聴いていたい、でも少しでも早く言葉が聞きたい。相変わらずの寝起きだからか、焦りからか手元がおぼつかない。自分の手ではない様だ。そこで今朝のことを思い出した。中止、もう一人に告げていない…急いで連絡を取った。直ぐに帰ってきた言葉。―2人ででも、遊ばないか?―このままでは、どうやら中止にはなら無そうだ。折角の誘い。だが生憎今はそんな気分じゃない。瞼が痛い。きっと腫れている。悪いと思いながら…いや思って居なかったかもしれない。とりあえず嘘を送った。とても独りになりたいなんて送れなかった。心配させたくないだなんて綺麗な理由じゃない。ただ、こんな醜態晒すわけにはいかなかった。直ぐに返ってきた返信には仮面を被ったまま返した、そう醜態は晒せないのだ。次の返事は無かった、正直助かった。偽るのも限界だった、瞼が熱い。このまま燃えてしまうんじゃないか…そう思ったら熱い水が冷やそうと瞼からじわりと顔を出した。痛い、痛い。熱い水なんかで冷えるはずも無い。でもバカになった涙腺と脳みそは瞼の熱を冷やそうと躍起になった。被害を受ける私と瞼の気も知らないで、熱い水は止まらない。痛い。今日は愛しい人にも声を送れなさそうだ、独りになりたい。
作品名:無題 作家名:しま