雨は消えてしまう
…雨とはつまり、僕の恋人のことだ。
綺麗な細い髪と綺麗な細い指の持ち主で、とても軽い(体がね)女の子。
雨が降ってきて、洗濯物を取り込もうとタオルケットをふわりと広げたそのなかに雨は落ちてきた。
僕はなかなか濃密な人生を送ってきた男だからあまり驚かなかった。
雨もとても落ち着いていた。
「…雨です」
雨はすぅっと溶ける氷細工みたいに囁いた。
僕は雨に濡れた雨をタオルケットで拭きながら、
「名前?それとも本当の?」
と、聞いてみた。
しとしとと雨は僕の洗濯物を濡らし続ける。
「…りょうほう…」
そうなのか、と僕は少し笑いかけて雨を中に入れた。
温かいココアを入れてそっと雨に手渡す。
そうしないと壊れてしまいそうな細い細い指…。
「私を…恋人に」
恋人にしてください、と雨は呟く。
ココアは雨の手のなかでまだ手付かずのままだ。
「どうしてだい?」
僕は解せなかった。
僕の取り柄なんていったら人より少し強い霊感ぐらいだ。
それに小さい頃は色々あったけどもう自分の体質に向き合えるようになった。
だからオカルト好きの女の子にはがっかりな人だろうし普通の女の子は怖がってしまう。
雨は普通の女の子ではないんだろうか?
「…目」
「…え?」
雨はそろそろと僕の顔を細い指でなぞる。
「口、耳、喉、体…が好き」
彼女の触れたところはみなうっすらと濡れていく。
僕は恐ろしくなる。
…あぁ
きっといつか雨は消えてしまう
「…はい…」
ぼくらはできるだけそっと抱き合う。
壊れないように、壊さないように。