夏祭り、紅の赤
薄い膜の張ったポイを水中に沈めるとワッと群れをなして赤や黒の金魚が逃げる。
とてもとても小さい金魚。
頭も姿も小ぶりで、あの透明の、いかにも脆そうなビニール袋の中に入れても帰り道まで命が持つかどうか疑ってしまうくらいの、小ぶりの小赤。それよりかは幾分丈夫そうに見える、瞳が大きく突き出した黒い出目金。
最後まで面倒を見切れるか分からぬまま、雰囲気に呑まれて掬う、幼き日の夏祭り。
まだ自分よりも大きく見えた父の、手首を返し、ひょいっと金魚を掬い上げる頼もしさに目を見張る夏。
普段は電灯乏しい道を歩き帰る中、「気をつけろ」とだけ言われて渡されたその小さな金魚が一匹入ったビニール袋はまるで小宇宙。
紅を差したような赤が目に刺さる。
人混みで父と、手にした命を逃さないようにもがく幼き日の私は今、ポイの代わりに世間という膜に掬われ、その上から落ちないよう、必死にもがいている。