誰もいないお屋敷で
どこかの森の中の古い洋館
たった一人でそこにいた
パタパタと音を立て、少女はお屋敷内を歩き回る。
大きな屋敷は外観こそ古びてるが、中は綺麗に保たれていた。
床は塵一つ無く、家具も埃などかぶっていない。シャンデリアは美しく光を反射し、銀食器も曇ったものは一つもない。お皿だっていつでも使えるようにきちんと整理してあった。シーツだって毎日洗ってあり、お布団はちゃんとふかふかにしてある。
外の壁こそ汚れているけど、コレばっかりは彼女にはどうしようもない。3階建てで、とっても広いお屋敷の外壁は彼女だけで綺麗にするには少しばかり無理がある。
シャンデリアを降ろして掃除するのだって精一杯な小さな体なのだから。
全て、少女は一人でやっている。だって他には誰もいないのだ。大きなお屋敷で一人きり、毎日毎日飽きることなく掃除ばかりして暮らしてる。
今日は庭の手入れをしよう。
少女は決めて庭に出た。
白い薔薇が咲き乱れるお庭はご主人様が気にいってた場所なのだ。
痛んだお花を摘み取って、雑草を抜いたらお水を撒いて。
高かった日が落ちるまで作業を続ければ、お庭はすっかり綺麗になった。
今日はこれでおしまいにしよう。ほかの事はまた明日。
いつでもご主人様が帰ってきてもいいように、お屋敷もお庭もきれいにしておくのだ。
そうすればご主人様が帰ってきたときに、素敵な笑顔が見れるはず。
真っ白い髪にガラス球のような透き通る灰色の瞳。
白い肌に白いワンピース。靴下と靴もおそろいの白色。
土いじりをしても、真っ白なまま。
白い指先すら、汚れずに。
少女は軽い足取りでお屋敷に戻っていく。フンフンと鼻歌すら漏れていて、なんとも楽しそうな笑みのままで。
彼女が帰る方向の反対側、彼女が決して立ち入らぬ庭の一角。
近付かないその理由すら意識できないその場所に。
立ち並んだいくつもの、朽ちかけた十字架。
白い大理石のが3つ。あとは木でできたものがたくさん。
白い十字架の前には一枚の写真が落ちている。セピア色で、もうボロボロの古い写真。
何が写っているのかよく分らないその写真。
目を凝らすと見えてくるのは
かろうじて写っている二人の大人。一人はドレスで、一人はスーツ。
その間に立つ可愛らしい少女。微笑んでいる彼女の手にあるのは。
真っ白い髪にガラス球のような透き通る灰色の瞳。
白い肌に白いワンピース。
靴下と靴もおそろいの白色の、可愛い顔のお人形。
真っ白な少女は今日も
誰も来ないお屋敷で
掃除をして暮らしてる