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連続実験:症例H

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第五話:邪魔モノ消しゴム(福沢)


 
 あっ、私の番?
 じゃあ最初に自己紹介するね。
 皆さん、はじめまして。私は福沢玲子っていいます。一年G組なんだ。よろしくお願いしまーす!
 
 ところでさ、坂上君だっけ? あなたは、おまじないとかジンクスとかに興味はある?
 ……そうなんだ。やっぱり男の子ってそういうの気にならないのかなぁ?
 でもさ、女の子はいつの時代でも、占いとかおまじないとか、そういうものに目がないんだよ。私が話すのは、そんなおまじないに関する話。
 
 私には、年の離れたお姉ちゃんがいてね。昔、この学校に通ってたんだ。
 その頃、お姉ちゃんのまわりで、あるおまじないが流行ってたんだって。
 邪魔モノ消しゴム、っていうんだけどさ。呼び名の通り、邪魔なモノを消すためのおまじないなんだ。
 それだけ聞くと、ちょっと怖い感じだよね。おまじないっていうより、のろいに近いかもしれない。でもさ、「のろい」と「まじない」って、同じ漢字を使うじゃない。そう、「呪」。確か、送りがなも同じだし。だから元を辿れば、呪いもおまじないも、おんなじものなんだよね、きっと。
 
 それで、「邪魔モノ消しゴム」はね、どこでも誰でもできるってわけじゃないんだ。この学校の生徒じゃなきゃダメなの。手順がちょっと特殊なんだよ。
 まず、購買で消しゴムを買うの。他のお店じゃ効き目がないんだって。
 それからカバーを外して、消しゴムに赤ペンで「除」って字を書くのよ。もちろん、カバーからはみ出ないようにね。
 書いたらカバーを戻して、誰にも見られないようにその消しゴムを旧校舎に持って行くの。そして、どこでもいいから月明りが当たる窓辺に、消しゴムを一晩置いておくんだって。
 それが済んだら、今度は紙を用意するの。紙は何でもいいんだ。ノートの切れ端でも、テストの答案の裏でも。とにかくそれに、邪魔なモノを書くんだよ。
 
 勉強が苦手な子なら、明日のテストとか。運動が苦手な子なら、体育祭とか。好きな人に彼女がいるなら、その彼女とかね。
 
 書き終わったら、「○○さん、さようなら」と唱えながら、さっきの消しゴムで消すの。
 明日のテストさん、さようなら。体育祭さん、さようなら。坂上君の彼女さん、さようなら……なぁんてね。
 すると、願った通りに邪魔なモノがなくなるんだ。それどころじゃない事件が起こってテストが先送りになったり、体育祭が雨で中止になったり、好きな人と彼女が急に別れてしまったり。
 
 結構効き目があるって、お姉ちゃんの時代では評判だったんだって。だから私、お姉ちゃんからその話を聞いた時は面白いと思って、何人かクラスの子に「邪魔モノ消しゴム」のこと、話したんだ。その時はみんな、「おもしろそうだね」とか、「本当に効くのかな?」とか、感想をいうだけだった。でもね、そのうちのひとりは、実際におまじないを試してみようと考えてたんだ。
 
 その子は、中野渡蘭ちゃんっていうだけど、私から話を聞いたその日のうちに、早速購買で消しゴムを買って、おまじないの準備をしたんだって。
 蘭ちゃんは、何を邪魔に思ってたと思う?
 そう、人間。蘭ちゃんには、殺したいほどに憎い人がいたんだ。
 坂上君って勘がいいんだね。それとも坂上君にも邪魔な人がいるとか?きゃはは!
 
 蘭ちゃんには菫さんっていう、三年生のお姉さんがいてね、蘭ちゃんは菫さんのことをすごく慕っていて、私のクラスでは仲良し姉妹って有名だったんだ。
 その菫さんには、とても好きな人がいたの。クラスは違うけど、同じ三年生の人でね、菫さんは彼のことを三年間ずっと思い続けていたんだって。
 蘭ちゃんもお姉さんの恋を応援していて、うまくいくようにとりはからったりもしたの。
 だけど菫さんは、勇気を出して告白した結果、フラれちゃったんだ。そして、失恋のショックで自殺してしまったの。大好きな人にフラれて生きる気力がないという内容の遺書まで残してね。
 
 蘭ちゃんは、大好きなお姉さんがそんな風に死んでしまって、悲しくて悔しくて、おかしくなっちゃったんだよね。
 菫さんをフッた先輩を、邪魔モノ消しゴムで消してしまおうと思いついたの。そんなことをしても、お姉さんは戻ってこないのにね。
 
 おまじないの手順は完璧だった。何も間違えなかった。蘭ちゃんは、「これであの男はいなくなる」と思った。でもね、一週間経っても、一ヶ月経っても、その先輩は消えるどころかピンピンしてたの。人をひとり自殺に追いやったくせに、幸せそうに笑って暮らしていたのよ。
 
 蘭ちゃんはおまじないがインチキだったんだと思って、とうとう私に訴えてきたの。そんなの、私のせいじゃないのにね。
 
 でもさ、実は私も、試してたんだよね。邪魔モノ消しゴム。効き目?あったよ。だからおかしいと思って、蘭ちゃんと一緒に、今度は違うモノで試してみたの。
 全部消えたよ。消えないモノなんてなかった。ウザい教師は転勤したし、友達に嫌がらせしてた女も行方不明になった。消えなかったのは、菫さんをフッた、その先輩だけだったんだよ。
 
 そこまで強力な邪魔モノ消しゴムも怖いけどさ、それでも消せないその先輩って、一体何者なんだろうね。
 実はその人、坂上君もよく知ってる人だよ。そう、日野さんなんだ。
 
 さっきの岩下さんの話じゃないけどさ、日野さんってタダ者じゃないよ。だって私ね、邪魔モノ消しゴムで日野さんが消えなかったこと、本人に話したんだけど……あの人、何も言わずに笑ってたんだから。
 
 私の話はこれで終わりだけど……坂上君、本当に気をつけてね。

作品名:連続実験:症例H 作家名:_ 消