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連続実験:症例H

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第三話:ディスティニー(風間)


 
 ……ん? ああ、ボクが話す番なんだね?
 失礼、今までの話があまりに退屈だったものだから、ついつい明日の可愛い子ちゃんとのデートについて思いを馳せてしまっていたよ。あっはっは。
 
 ああ、気にしないでくれ。
 ええと、新堂に、太田だっけ? え? 違う? 細田? まあどっちでもいいよ。とにかく君達が悪いわけじゃないからね。
 君達の話に比べて、ボクが用意した話が高等過ぎるというだけのことさ。
 まあ、期待してくれたまえよ。
 
 挨拶が遅れてしまったね。ボクは風間望。三年H組だよ。よろしく。
 
 ところで君、坂上君?
 君は、運命ってやつを信じるかい?
 ……失礼だな。違うよ。宗教の勧誘じゃないよ。そんなものと一緒にしないでくれるかな。
 君ねぇ、宗教なんてものは、所詮は金儲けの一手段にすぎないんだよ? 要は大衆をどれだけうまく騙してお金を払わせるかなのさ。本当に救うつもりがあって、救う力があるならねぇ、お金なんか要求しないだろ。
 
 まったく、君が無知で無分別なせいで話がそれてしまったじゃないか。
 いいかい、もう一度聞くよ。
 君は、運命を信じるか、否か。
 
 ……ふぅん? 信じないのか。馬鹿だねえ、君は。
 人の運命はあらかじめすっかり決まっているものなんだ。そしてそれは、どんなにあがいても決して変えられないものなのさ。
 
 どうしてそんなに自信満々なのかって?
 それはね、ボクに未来を視る力があるからさ。
 信じられないって顔をしてるね。まあ、気持ちはわからなくもないよ。
 そんな疑い深い君の為に、今日は特別にタダで君の未来を視てあげようじゃないか。
 え? 普段はお金を取るのかって? 当たり前だろ。ボクの予知は宗教でも慈善事業でもない。ビジネスでやってるんだからね。
 
 さあ、わかったらさっさとそこで逆立ちしなさいよ。ボクはね、人の逆立ちした姿を通して、未来を視ることができるんだ。
 ……は? 体育は苦手? なんだい君、逆立ちもできないの。せっかくボクが未来を視てあげるっていうのに、「出来ない」じゃ話が進まないじゃないか。いいよ、そこの壁に寄り掛かっていいから、頑張れよ。
 君は日野に聞き役を任されたんだろう。だったら、責任を持って役目を果たすのが筋ってもんだよ。
 
 そうそう、その調子だ。あと一息!おっと!?……ふぅ。ほら、やればできるじゃないか。はじめから文句を言わずにチャレンジすればいいんだよ、まったく。
 
 ふむふむ。そうか……わかったよ、君の未来が。今、君にも見せてあげよう。
 ここに手鏡がある。覗いてみるんだ……見えたかい?
 
 そう、それが、君の死ぬ時の顔さ。
 
 ……。
 …………。
 なんだい、その目は。
 睨むなよ。ちょっとしたジョークじゃないか。
 ……ああ、悪かったよ。確かに、ちょっとからかいすぎたよ。
 でもよかったじゃないか。逆立ち、できるようになっただろ。
 結果よければすべてよし。
 怪我なければスベってよしさ。
 
 ……わかったよ、本当のことを言おうじゃないか。
 君の未来は……日野にしごかれつつ居残って七不思議の原稿を仕上げる──。
 え? それなら誰にだって予見できるって?
 しょうがないじゃないか、その様子が視えたんだから。
 とにかく、それは決定事項だからね。避けようとしたって無駄ってことさ。
 
 ……待てよ。そういえば、一度だけ未来が視えなかったことがあったな。
 日野に頼まれて、アイツの未来を視てやろうとしたんだけど……どんなに頑張っても視えなかったんだ。あんなことは、生まれて初めてだったよ。まあ、あの日はたまたま調子が悪かっただけだと思うけどね。
 
 ……。
 …………。
 
 何、見てるんだい? ボクの話は済んだんだよ。さっさと次に行けよ。
 まったく、こんな頼りないのに聞き役を任せるなんて、日野も何を考えてるんだか……。

作品名:連続実験:症例H 作家名:_ 消