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連続実験:症例H

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第七話:学校に囚われた男子生徒の霊(荒井)


 六人の話はすべて終わった。既に陽は落ちて、辺りはすっかり暗闇に包まれている。
 七人目はまだ訪れない。六人は皆押し黙り、僕が口を開くのを待っているようだ。時計の秒針が時を刻む音だけがやけに耳につく。
 どうしようか。このまま七人目を待つべきだろうか。それとも、今日は諦めて帰るべきだろうか。
 そろそろ、先生が見回りに来てもおかしくない時刻だ。やはりもう解散した方がいいかもしれない。
 僕がそこまで考えたときだ。荒井さんが、重い沈黙を破って口を開いた。
 
「このまま待っても、恐らく七人目は来ないでしょう。本人が約束を忘れてしまったか、日野さんが六人にしか声をかけなかったか……そんなところだと思います。ですから、どうでしょう坂上君。僕にもう一話語らせてくれませんか。先程も言いましたが、僕はこの会合のために、元々は別の話を用意していたのです。その話を、七話目とするわけにはいきませんか?」
 
「そうですね……」
 
 僕は、意見を窺うようにまわりを見渡した。誰も異論は無いようだ。
 
「では荒井さん、よろしくお願いします」
 
 僕が促すと、荒井さんは淡々と語り始めた。
 
 
 
 
 ……では、もう一話お付き合い下さい。
 あれは、僕がまだ、小学校にあがったばかりの頃のことでした。当時の僕は、近所にある少し寂れた公園に行くのが日課でした。そこは住宅街に位置しながら、どこか世俗とは隔絶された空間でした。いつでも心地よい静寂に満たされ、外界とは違った時間が流れているようでした。
 僕はその日も、公園の隅にあるベンチに腰掛けて、図書館から借りた本を読んでいました。しばらくは読書に夢中でしたが、やがて妙なことに気付きました。
 いつのまにか、隣に高校生が座っているのです。僕は彼が公園に入って来たのにも、ベンチに腰掛けたのにも、まったく気付きませんでした。僕は不審に思って、彼の横顔を盗み見ました。
 彼は、この学校の制服を着ていました。今思えば高校生にしては小柄でしたが、小学生の僕にはよくわかりませんでした。彼はぼんやりと空を見上げていました。いえ、空よりも遠いところを見つめているようでした。
 僕がなおも観察していると、彼は不意に僕の視線に気付きました。そして、僕にふんわりと微笑みかけると、すぐに立ち上がって、公園から出ていってしまいました。
 僕はその時になってようやく、彼が生きていない事に気付きました。彼は幽霊だったのです。
 ええ、僕は霊が見える性質です。細田君の言うように、今、この部室には不穏な霊気が垂れ込めています。
 ……それはともかく、話を続けましょう。
 僕はそれから、彼をよく見かけるようになりました。彼を観察するうちに、僕は彼が、自分が死んだことに気付いていないことを知りました。彼は、生前と同じように学校に通い続けていたのです。
 しかも、それだけではありませんでした。当時高校生だった僕の兄に尋ねてみたところ、そういえば不思議なことがある、というのです。
 
「僕が一年生の頃、彼はクラスメイトだった。皆、彼を生きている者として接していたんだ。だが、彼が一歩教室から出ると、皆は彼の存在を忘れた。廊下で彼に会っても認識できないんだ。霊の見える僕だけが、教室の外でも彼と話すことができた。僕が二年生になると、彼は後輩になった。新しい一年生は、僕らと同じように何の疑問も抱かず彼をクラスメイトとして受け入れた。きっと彼は、特殊な地縛霊なんだろう。特に害はないようだから、僕は放っておいているけどね」
 
 ……時が経ち、僕はこの学校に入学しました。クラスは違いましたが、彼は相変わらずこの学校の一年生でした。
 学内で彼を観察することによって、僕は気付きました。教室以外で、生者が彼を認識できる場所がもうひとつあることに。
 ……それは、部室です。恐らくは生前に彼が所属していた、新聞部の部室です。
 
 そう、坂上君。あなたは、もう死んでいるんです。あなたはその事に気付かないまま、もう十数年も此処に留まっているのですよ。
 
 
 
 
 ……荒井さんの言葉を受けて、語り部達の視線が一斉に僕に向けられた。
 以前も、こんな事があった気がする。あれは、何年目の夏だったのだろう。
 ああ、だけど、思い出した。僕は、僕が死んでしまったことなんか、とっくに気付いている。
 
「荒井さん、それは少し違います。此処に留まり続けているのは、僕だけではありません。あなたも、そして皆さんも……同じことを繰り返しているんですよ」
 
 
 
 
 新堂さん、あなたは本当は、疑っていたんじゃありませんか。神田さんを殺したのは、やっぱり日野先輩なんじゃないかって。それを日野先輩に確かめたんじゃありませんか。そして、どうなりましたか?
 細田さん、あなたはそれでも気になった筈です。何故日野先輩は、三日おきに同じ個室を使うのか。そして、その理由を知ってしまったのでは?
 風間さん、あなたは何度も試し、それでも日野先輩の未来は見えなかった。その原因に心あたりがあったのではありませんか?そして、日野先輩にそれを確認した。その結果……。
 岩下さん、あなたは知っていたでしょう。日野先輩が今のような存在感を手に入れたのは、この学校に入学してからだということを。そのことを、日野先輩に気付かれたのではありませんか?
 福沢さん、あなたは邪魔モノ消しゴムで日野先輩を消せない理由をわかっていた筈です。彼が、日野貞夫ではない、ということを。
 そして荒井さん、あなたは最終的に真実にたどり着いたんです。僕をこの学校に留めているのは、日野先輩……あの化け物だと。
 
 
 
 
 僕が語り終わると、六人はすべてを思い出し、疲れきった表情で扉を見つめていた。
 あいつの足音が聞こえる。間もなく此処にやってくる。そしてまた繰り返すのだろう。
 
 僕は、僕達はとうに諦めている。このループからは、永遠に抜け出せないのだ。
 何故なら、あいつこそが……魔物の巣窟であるこの学校の主──
 僕達を恐怖に陥れ弄ぶ──闇、そのものなのだから。
 
 
 
 
 
 Replay?_
 

【10.05.07 - Colpevoleより再録】
作品名:連続実験:症例H 作家名:_ 消