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オレたちのバレンタインデー

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18 後日談―?


「皆さんっ、T高校生徒会復活運動への署名をお願いしますっ」
 かすれた声が、ぼくの耳元をかすめていく。
 冬の気配も徐々に後退し始め、空は淡く、薄い雲が掛かっている。
 T高校最寄り駅。ぼくは首からクリップボードを下げて、人ごみをぼーっと眺めている。人は皆、ぼくたちをちらりと見ては目を逸らし、歩き去る。ああ、ぼくはこんなところで、いったい何をしているのだろう。
「……あのー」
 飛びかけた意識は、前触れなく引き戻された。
 セーラー服の女の子が、ぼくを見ている。利発そうな、小柄な少女だ。
「はっ、……はい。署名して下さい。お願いしますっ」
 思わず腑抜けた声を上げてクリップボードを差し出した。彼女は、備え付けのボールペンで、必要事項を書き込んでいく。
「頑張って下さい」
 一瞬、優しい光を湛えた彼女の瞳が、ぼくに笑いかけた。そして、あっという間に、その姿は人ごみの中に消えていった。
「…………」
 笑顔が瞼に焼き付いた。何度も、今しがたの場面を頭の中でリフレインする。そういえば、礼を言わなかったな、と思った。
「おいっ、?元?副会長!」
 ごつん。
 かすれ声とともに、頭を軽く小突かれた。
「なっ、何をするんだ問題児クン」
 振り向くと、問題児以下元会長と元書記兼会計が、ぼくをじとーっとした目で見ている。
「……I先輩……ロリコンですか……」
 きれいな顔したOクンに言われると後ろめたくなります。……ってぼくはロリータコンプレックスではない、断じて。だいたい中学生と高校生だぞ。
「一人の人間に現を抜かしている暇はないよ。まだ十人しか署名が集まってないんだからね」
 元会長が神経質そうに髪をかきあげる。
「いいかい、学校を大きく動かすことには少なくとも千人以上の署名が必要で……」
「と、いうか、始業五分前ですよ、先輩」
 Oが、腕時計を見て、至極冷静に言った。
「なぜそれを早く言わなかった!」
 問題児が叫び、
「皆の者、全力疾走せよっ」
 言うが早いか、駆け出した。
「おい、慌てるな」
 Oがその後を追う。
 ぼくたちは、上級者らしく、ゆっくりと歩き始めた。
「まあ、まだ先は長いしな。Oが会長になる時期までにはどうにかなるだろう」
 Zが、白い顔を心なしか綻ばせている。
「I、角刈り意外と似合うな。前よりもずっと、ボクの部下らしく堂々としてみえる」