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オレたちのバレンタインデー

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1 謎の配布物―オレ


『「バレンタイン」及びそれに類似する言動を木校は堅く禁じる。あってはならないことである。世の中でバレンタイン旋風が吹き荒れ、友チョコや義理チョコや木命チョコが飛び交う中、我々は沈黙を守らねばならない。日木人の追随精神について木校の賢明な男子諸君は愚昧にも程があると思っていることだろう。
 もし、木校生徒がそのような言動、またその素振りを見せれば、生徒会長直々に呼び出し三時間のオセロの相手役を命じる。
T高校生徒会』

「……なんだこれ」
 朝の会で配布された臨時の生徒会報を見て、オレは唖然とした。恐らく手書きであろうと思われる毛筆が途方もない憤怒を表している。そして憤りに忘我したためか、「本」が「木」になっているのがなんとも痛い。
「副会長Iの引いている糸らしいよ」
 隣席のOが本日数学の課題である複雑な数式を素早く解体しつつ答えた。
「待て、有り得ないだろそれ。たかが副会長ごときにそのような権限があるものか。だいたい、会長とオセロをする意味が分からん」
 ツッコミを入れたつもりだったが、Oは全く取り合わない。知的な表情を崩さずシャープペンを神速で走らせている。
「Iは虎の威を借る狐だ。
 生徒会長Zといえば総理大臣も頭の上がらない世界的大企業の御曹司。機嫌を損なわせたら僕たちの存在さえ抹消されかねない。そして悪いことに、彼のオセロは下手の横好きなのだ」
 ここまで言われて、オレにも会報の真意が分かった。
「暴政だ。オレたちのひそかな期待と不安と歓喜と落胆の時節を棒に振らせるつもりか」
 拳を握り締めるオレを、Oは軽く諌めた。
「そう好き勝手言わない方がいい。副会長の手勢がこのクラスにいないとも限らない。抑えろ、この苦痛に耐えた後には、きっと春が待っている」
 オレは頷き、なんとか口を閉ざした。しかし次の瞬間、その封印は早くも破られることとなる。
「うわあっ、大変だっ」
 バレンタインデーに自分にチョコレートを渡しに来る女子が少なからずいることを、はっきりと思い出してしまったのである。
「O、もしかして、副会長の圧政は校外にも及ぶのか」
 Oは相変わらず冷静な声で、
「ああ、むしろその方がメインだろう。金で雇われた者や副会長の考えに賛同する者がT高生の周囲を嗅ぎ回る。学ランは全て敵と思え」