『アフターケア』episode 01
(2)依頼
漁業組合3階の便利屋の事務所に、役場の政やんから電話連絡があったのは昨日の夕方だった。
電話に出たのは翔ちゃんだったが、話しの内容からするとまたゴミ屋敷の片付けを頼まれたらしい。
政やんは、この「便利屋」にことあるごとに、仕事を依頼してくれる有り難い人だ。
それゆえ、政やんの依頼に関しては例え夏場だろうと引き受けざるをえない。
「ん、死んだ婆さん?ああ、解った」
事務所の一番奥には、事務机が置かれている。
そこに踏ん反り返りながら、電話対応する久瀬の翔ちゃんが居た。
まあ、事務所といっても、此処は漁業組合ビルで、倉庫として使われていた部屋を、田渕組合長の好意で貸してもらっている。
従って、組合関係の備品やら何やらが、所狭しと置かれていた。
その中に事務机と接客用のテーブル一組が有るだけなのだ。
まあ、客はあまり此処には来ないから構わないと言えば構わないのだが、ちょっと悲しい。
しかし、今回も翔ちゃんは政やんの依頼を素直に引き受けた様子。
「翔ちゃん、仕事?」
私は古びた接客テーブルセットの古びたソファーに座り、DSのト○ダチ○レク○ョンをやめ翔ちゃんに聞いた。
「ああ、政文からの依頼でゴミ屋敷の掃除らしい」
翔ちゃんは、事務机にデンと投げ出した足を下ろすと、何時もの澄んだ目を私に向ける。
髪は何時もオールバックにして、どこかの探偵気取りではあるが、容姿だけ観ればそうとれなくもない。
身長は約180センチ、すらっとした体型で肩幅もしっかりしている。
顔は・・・まあ、少し童顔で清んだ目をしているから。
多少・・・顔だけは探偵らしくないが、
それは、「便利屋」だからこの際よしとしよう。
「引き受けたんでしょう?」
私は、何時も活発な女子。
服装的には下からダークブラウンのグラディエータサンダルを履き、
足はスラットした美脚。
デニムのショートパンツにトップは、今流行りのガーリーなワンピでキメている美少女である。
・・・・・
えっ、誇大広告みたいなこと言うな。
あんた、本当に失礼ね。助監のくせして。
・・・・・
「うん、だから何時もの、用意しておいてくれないか千里。
俺はレンタカー手配しとく」
翔ちゃんが言った何時ものとは、怪我のないよう手袋と、
ゴミを分別しなければならないので地区専用の袋を用意しろ。
その意味が何時ものということになる。
手袋なしだと、かなりヤバいっす。
たまに、デロデロに溶けた何かをつかむことがある。
何か得体は知れないが・・・そう、スライムを想像していただけばよいかも?
それを手にした時は・・・一日、落ち込むよ。
その感触と臭いには、一か月分のツキを持っていかれた感じで・・・
・・・・・
余計な話はイイって。チッ。
「はぁい。解った」
私は、漁業組合関係の雑多な備品を掻き分け、手袋とゴミ袋を探す。
・・・・・
オッケ?
そっ。はい、お疲れ様です。
じゃあまた明日、Y区の現場でぇ。
「ふう、翔ちゃん疲れたよ」
「普段どおりにしてればいいだろ」
机に再び足を投げ出した翔ちゃんが、澄んだ目を細め笑って居た。
そうだ、まだまだこの撮影は続くのだ。
少しは、リラックスしないと・・・明日からが本番なのだから。
作品名:『アフターケア』episode 01 作家名:槐妖