『アフターケア』episode 01
(8)アフターケア
「翔ちゃん、これからどうするの?」
私は、便利屋の事務所に戻ると、翔ちゃんにこれからのことについて聞いてみた。
それに対し、帰ってきた答えが・・・
「ああ、原因を作った奴らを呼び出してきっちりとケアしないと!」
えっ、奴らとは?
短刀はどうするのだろうか?
今日も、ゴミ屋敷の片付けが続いていた。
しかし、今日でそれもお仕舞いだ。
数日前まではゴミ屋敷と言われたこの鈴木トメさんの家も、今では、ほとんどのゴミはなくなった。
後は、うちで贔屓にしているハウスクリーニングの業者にお願いすれば、見違えるほどの家となる。
そうなれば、いずれ此処にも新たな住人が移り住むことだろう。
それとも、さら地にされ土地だけが売却となるか・・・
何れにせよ、鈴木トメさんの人生はそこで終わる。
私は汗だくになりながら、ゴミをトラックに積み込んでいた。
一通り運び終わると、一番奥にある8畳の部屋に行き翔ちゃんに声をかけた。
「翔ちゃん!そっちどう?」
翔ちゃんは、片付け終了とばかりにピースサインをして見せた。
「やっと終わったよ。きつかったぁ」
その場に座り込むと、まばゆい笑顔がこぼれる。
「これ運んだら、そろそろだなあ」
えっ?そろそろ?とは、何ゾ。
意味不明なことを言う翔ちゃんと共に、残りのゴミ袋を両手に抱えトラックへ運び込み・・・終了。
さすがに、仕事が完了するとうれしい。
それから二人は縁側に行き、
のんびりとした気持ちで凌霄花を眺めた。
(今日は、少し穏やかな顔をした鈴木トメさんが淡い光を放ちこちらを見ている。
横に居る翔ちゃんも、穏やかで澄んだ目を凌霄花に向けていた。
トメさんと話しているのだろうか?)
しばらくの間、二人は言葉をかわすことがなかった。時間がいつもよりゆっくりと流れていく感じがした。
・・・・・
おっけぇでしょ?
「いやぁ、終わったねっ翔ちゃん。これで、少しのんびり出来るかな?」
隣の翔ちゃんは笑っていた。
カットの合図で、今回のドキュメンタリー撮影は終了となったわけだが、
こんなの撮影したところで面白いのだろうか?
スタッフが機材を片付ける光景を見ながら私は思った。
まあ、ギャラがよかったしおっけぇでしょう。
でも、スタッフともお別れ、少し淋しい気もする・・・
もう少し、助監の前原をいじめておくのだった・・・まっ、いっかあ。
・・・・・
私と翔ちゃんは縁側に座ったまま、みんなが去って行く光景を、
ボ~としながら眺めていた。スタッフが帰り際「お疲れ様」と言っては去って行く。
全員が居なくなると、今までスタッフが居た場所に、二人の男女が現れた。
一人は、役場の政やん。もう一人は、あの佐々木昌子だ。
何故此処に?翔ちゃんが呼んだのか?
二人は、こちらに近づいてくる。
「いらっしゃい。此処もだいぶ綺麗になったでしょ。政文わざわざすまなかったな」
翔ちゃんは、何時もよりだいぶ真剣な面持ちで二人に語りかける。
佐々木昌子は何故此処に呼び出されたかも解らない様子だ。
「ああ、別にかまわないさ。それにこれは此方のミスだからね」
役場に勤める、東海林政文。通称政やん。と言うか私だけがそう呼んでいた。
政やんは、某有名大学出なのだが何故か地元が一番だと言い。今の役場職員の道を選んだ。ちょっと変わった人だ。でも、私達にとっては仕事の依頼人であり、翔ちゃんの親友でもある。今日もさらさらヘアを靡かせ、シャープな顔立ちに縁なし眼鏡をかけ、スーツのよく似合う男。歳は翔ちゃんと一つ違いと言っていたから・・・幾つだろ?
25、6だったかな?とにかく、いい男には違いない。
「あの、何故私が此処に呼ばれたのですか?
何の用なのでしょうか?」
佐々木昌子は、立ち上がった翔ちゃんに詰め寄る。
私はあの時の事がバレルことを恐れ、翔ちゃんの背後に隠れるように身を寄せる。
「いやあ、実はですね。此処の住人であった鈴木トメさんがどうしてこのようなゴミ屋敷にまで陥ったか。その理由が解りましたので関係者の方をお呼びしてご説明しよう。そう思ったものですから、それで役場の政文とあなた・・・佐々木昌子さんをお呼びした訳なのですよ。ご足労おかけして申し訳ありませんが、これから話す事を聞いていただけませんかね?」
翔ちゃんはそこまで言うと、また縁側に座る。私はその場に取り残され、昌子と眼が合ってしまった・・・バレタか?
「どう言う事です。それ?それに貴女は先日の介護を頼みたいと言ってきた人ですよね」
昌子は、私の顔と役場の政やんの顔を交互に見ながら言葉を続ける。完全にバレタ。
政やんは気にもしていない様子だ。
「きちっと説明してください」
教○委員のような態度の昌子。
「まあ、怒らないで下さい。これから、きっちり説明しますから、佐々木晶子さん。自己紹介が遅れましたが、俺は久瀬翔。そして、そこに突っ立って居るのが千里。まあ、もう顔は知っていますよね。で、そっちの澄ました男が貴女もご存知東海林政文。紹介が終わったところで、座りませんか」
翔ちゃんは、ぽんぽんと縁側を叩くと、にこやかに笑った。でも、私のことを突っ立て居るはひどい。
招かれるまま、右隣りに晶子。そして、政やん。私は、翔ちゃんの左隣りに陣取る。
縁側に移動する際も、晶子は「何なのもう」と、憤慨していた。
「では、これから話すことはあくまで我々が調べた事実を述べるだけですので、言いたいことがあればその都度おっしゃって下さい。あっ、千里。鞄持って来てくれる」
翔ちゃんは私に向き直ると、アフターケアのアタッシュケースを持ってくるよう指示した。
「うん、解った」と言って、直ぐさま車からアタッシュケースを持って来て翔ちゃんに渡した。
「ありがとう」と言い、翔ちゃんは再び晶子へ目を向ける。
晶子は何が起こるのか、思いあぐねた様子で目がキョロキョロしていた。
「まずは、このゴミ屋敷の元住人だった鈴木トメさんのことから説明しましょう。
トメさんは約半年前、自分の物忘れがひどくなっている事を気にしていた。
もしやと思い病院で受診することに決め、医師の診察を受けました。
その時の診断結果は進行性の健忘症だと言われた。医師からはまだ入院するほどではないが、心配なら介護ヘルパーを雇うよう奨められたようです。
そこで、トメさんは奨めもあってか、ヘルパーを雇うことにした。いったん家に戻ったトメさんは、何処がいいのか迷う。
で相談を持ち掛けられたのが、そこで澄ましている彼、東海林政文。だよな、政文」
ここまで話すと、政やんに言葉をなげかける。政やんは「ああ、そうだ」と言ってかえした。
晶子は相変わらず。何が言いたいのだと言わんばかりの表情を翔ちゃんに向けていた。
それを無視するかのように翔ちゃんは、言葉を続ける。
「そして、相談を受けた彼は自分が担当ではなかった為に福祉課に聞いた。
すると、福祉課からの答えは、佐々木晶子さん、貴女が勤めていた天使の羽を紹介された。
そして、何も考えずにトメさんに紹介した。
このような経緯があり貴女が派遣された。そうですね。晶子さん」
やっと晶子に話しが及んだ。だが晶子はまだ、翔ちゃんの意図を理解していないようだ。
作品名:『アフターケア』episode 01 作家名:槐妖