掴めない色
周囲の景色に溶け入りそうなそんな色。
周りの音を聞きながら暫く寝転んでいた僕は、枕代わりにしていた腕を解いて起き上がった。少しじんじんする
木製の下駄が岩と擦れ、ガラッと音を立てて僕を日陰から連れ出す。思った以上に陽射しが強くて手で影を作って目を細める。
「はぁ…」
こんな溜め息にまでも色が付くのかと思うと、分かっていた事なのに妙な孤独感に襲われる。
僕は今独りなのだ
何も見えない、何も聞こえない世界。
そんな世界にただひたすら憧れ、追いかけては手からするりと逃げられていく日々を繰り返す。
目に入る色とりどりの光や言葉達はどれもすごく綺麗だけど今の僕には辛すぎて、君がいなくなったことを忘れようともがく。でも、声を出せば僕の色がそこに漂い、黙れば他人の色が溢れて見える。涙を流せば視界が歪み薄いフィルターをかけたように紫や黄、緑と色がつく。
ただ普通に過ごしているだけで、君が教えてくれた愛しい世界が広がる。君はもう居ないと分かっているのに、君の意思の残留みたいな色達が僕にまとわりついてどうしようもない孤独感に苛まれる。
「…何処へ行ったの」
青く茂る桜の木に問いかけた。
貴方が一番よく知っているでしょう?
しっとりとした朱色がどこからともなく転がってくる気がした。