White Box
空も、地面も、前も、後ろも、全てが白い空間に、少女の声だけが響く。
「あなたは、何故そこから出てこないのです?」
少女は独り言のように、何もない空間へ問い掛ける。
「あなたは、色の付いた世界へ行きたくないのです?」
返答はない。そこには誰もいない筈なのだから。
「……では私だけで外界に行ってもよろしいのです?」
静寂が少女の問いに肯定した。
少女は走る。
何もなかった場所へ――
「何故そんな所にいるのか、か」
少女がいた場所には、いつの間にか少年がいた。
「何故ここから出ないのか、か」
少年は少女が言っていた言葉を反芻する。
「色の付いた世界へ行きたくないのか、か」
葛藤が彼の心を支配し始める。
「私だけで外界に行ってもいいのか、か」
少年の手はわなわなと震える。
「僕だって、そうしたい筈なのにねぇ」
彼の作った拳はゆっくりと解かれる。それはまるで、自分に仕方ないと言い聞かせるよぅに。
「この透明な箱からは、出られそうもないんだよ」
少年はさっきの少女に、託すように呟く。
「だから――」
「今という時を、謳歌しなさい」
少女にその声は届いたのかはわからない。
「……ふふ」
とある高校の中、一人の少女は笑う。
「色のある世界は、楽しいね。お兄ちゃん」