だってコレ、アイのかたち
これはそう、愛なんだよ、君。
君が思っている愛ってどんなもの? いいや聴きたくないし興味ないし。
別に僕は相手を傷つけて、快感を得る種類の人間ではない。皮膚を打つ拳の感触は硬さと生々しさで怖気が立った。取り出した眼球のうしろにちょろりとついてくる視神経の不気味さには、吐き気がこみあげてきた。
でもね、僕はソウしなくてはならなかったんだ。
何故かって? わからないかなー。愛しているからさ、僕は僕に暴力を振るわれて、顎を割られて折れた歯を床を撒き散らして、まるでカバみたいに呻いていた彼女を、とってもとっても愛している!
「愛」という言葉はひとつなのに「愛」故の行動は人それぞれ。
そんなの、既知の事実でしょう?
あの子はとても素晴らしかった。外見はうーん・・・まあ十人並ではあったのだけど、一緒にいるとこう胸が温かくなる。傍にいると安らげるんだ。
晴天の下の木漏れ日に吹く爽やかな風、それは甘い花の香りをも運んでくるんだ。そうだね、久しく出会った春風に感じる心の高揚感。なんだか嬉しくて、傍にいるだけで満たされる、そんな子だった。
僕はただのチンピラで、盗みや脅しなんかで身を染めていた。だからその子の清楚さに一層強く惹かれたのだと思う。
でも、なんでだろう。互いにアイするばアイするほど、僕たちの距離は身体の近さと反比例して遠ざかった、齟齬が生まれ始めたんだ。僕たちの間にはあるノイズが僕らの意思疎通を妨げ始めた。
ダイジだと思った。でも愛せなかった。そのままの君では、愛せない。
だから思った、じゃあ汚してみよう。真っ白い壁にペンキでもぶちまけるみたいね。だから傷つけないと、いけなかったんだ。
きれいなおべべを裂いて、まとめられた髪を引きちぎって刻みこんで。
あの子は唾液に塗れた飴玉のような瞳で、僕を見ていたね。今にも涙を零しそうな瞳で震える声でユルシテッと懇願するように囁いたね。
その時を思った。ああ、やっと君を愛せる!!
僕がかつて愛した純潔を踏みにじり、グチャグチャに叩き潰してすりつぶして、それでも残った君の残り滓を啜るように飲みこみ、喉を鳴らす。二度と戻らぬ平穏の日々の哀愁に犯されて、僕は君から離れられないんだ!
ーああ、死にましたか、あの子。少し中身を零し過ぎましたね、失礼失礼。
えっ? 哀しくないのかって。哀しいに決まっているじゃないですか。この世で愛した人が我が目の届かぬ場所で消えてしまったのですから。事実殺したくなるほど愛した人ですからね。
でもこれで、僕の愛は一層完璧なものに近づいた。だってそうでしょう?
愛する人を殺した罪がこの身から離れないんです。永久に。まるで何かの奇跡のように、これこそ、永久の絆なのでしょう。ウフフフ、楽しいでしょう、楽しそうでしょう、笑っちゃいますよね、笑えよ
だってだって、仕方がないです。
これが僕の、アイなんですから
作品名:だってコレ、アイのかたち 作家名:ヨル