君ト描ク青空ナ未来 --完結--
2 -Seishi Side-
あの家を最初に訪れたのは大学を卒業したての頃だったと思う。
あのころはまだ父の商談やなにやらに秘書見習いとしてついて回っていた頃だ。
商談を隣で聴いていることもあれば、外で待っていることもあった。
一ノ宮邸へ到着し、向こうの家族全員に恭しく迎えられる。
商談に参加する一ノ宮の主人と長男とが部屋へと入った。
「誠司、お前は外でまっていなさい」
「はい」
ふすまを閉めようとしたところで、父親が制止の合図を出した。
「一ノ宮さん、誠司を樹君の遊び相手としてでも使ってやってください」
恐縮する一ノ宮の主人に向かって、いろいろ理由を述べてそれを納得させる。
こちらをみたその目には、嫌になるくらいしっかりと意志がこめられていた。
この家がどんな家かをしっかり調べて来い、と。
隣で母親と一緒にいた少年を見やる。
おそらくまだ小学校低学年だろう。
「樹君?一緒に遊ぼうか」
そう問いかけると母親の制止も聞かずに少年は元気よく返事をして、差し出された手をとった。
そこから一ノ宮との付き合いは1年ほど続く。
何ヶ月かに1回くらいでしかなかったけれども一ノ宮低へ赴く機会があってそのたびに遊んでいた。
そして彼はたびたび言った。
「鷹島のお兄ちゃんが本物のお兄ちゃんだったらいいのに」と。
そして、彼と出会ってから1年と少し、二度と一ノ宮邸へ行かないであろう事実が決定的となった。
一ノ宮の不祥事。
もともと一ノ宮との取引に乗り気ではなかった父はあっさり一ノ宮との縁を切った。
そして、それからずっと一ノ宮の次男と会うことはなかった。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-