君ト描ク青空ナ未来 --完結--
29
「樹さんの目的はなんですか?」
残りの時間は、あの人についてを聞くことにする。
敦也さんについての話は興味はあるけど、それでも今この10分で聞くべきことじゃない。
「樹の目的ねえ・・鷹島さんへの復讐ってところじゃないかな」
「それはどういう方法で?」
これは、さっき答えてもらえなかった質問。
「たぶん、君を傷つけること」
「でも、それは・・・」
「君は鷹島さんにとって少なからず特別な存在だと思うよ」
この言葉を今否定することは簡単だけど、そんな無駄なことに費やして良い時間じゃない。
「樹さんを止めることはできないんですか?」
「俺が?」
「敦也さんでも・・・誰でも」
「わからない。俺以外の人間の行動の予測なんてできないから」
曖昧に投げかけた質問には曖昧な答えが返ってくる。
「仮に、敦也さんがだとしたら?」
「ないね。それだけはハッキリいえる」
それは・・・この時間で縮まった敦也さんとの距離を一気にまた引き離される思いがした返答。
「忘れてるのかもしれないけど、俺と樹は共犯。今は樹との契約の最中なんだ」
この言葉に寂しさを覚えるのは、僕がこの人へ歩み寄りすぎたせいなのだろうか。
それとも、まだ俊弥さんの面影をこの人へ重ねているだけなのか。
「僕はどうすれば、誠司さんを傷つけずに済むと思いますか?」
その質問は予想外だったな、と一言おいて少し考えてるみたいだった。
「そうだなあ・・ここから逃げる、もしくは樹の心境変化を促す」
敦也さんの口から出たのはどちらも不可能そうな選択肢。
「今の空流くんにできそうなのは、この二つかな」
「できそうって、本気で言ってます?」
疑いが口をついて出る。
「できないならできないであきらめればいい。いつか終るって思って耐えてればいつかは終る。それが一番楽かもしれないね。辛いのは最初だけ」
その敦也さんの言葉にはとても深い響きがあった。
まるで、そういうようなことを経験してきたみたいな・・・深い響き。
あきらめればいいなんていう言葉に反論したい気もしたけど、それはのどの奥に飲み込まれた。
「もういい?そろそろ10分たつかもね」
さっき渡された腕時計を見ると、確かに10分たつくらい。
「最後に一個だけいいですか?」
「いいよ」
「あなたは俊弥さんに『あること』をわからせることはできましたか?」
敦也さんは目を見開いてその質問に驚いていた。
それからまた、儚げな笑みを浮かべた。
「そうだね・・・できたことを信じてる。決して良いやり方ではなかったと思うけれど」
その人の顔は、何かをやり遂げたような顔ではなかったと思う。
そうできたことに哀しみを感じているような気さえした。
言葉の裏をかえせば、こんなやり方でやりたくは無かってことなのかもしれない。
「そろそろ、おしゃべりは終わりにしようか。樹を呼んでくるよ」
預けられていた腕時計を渡すと、敦也さんは部屋を出て行った。
生活感の無い部屋に一人残される。
時間がたっても動くことの無い周りの物体を眺めていると世界の時間が止まっているような錯覚を起こしそうになる。
周りの世界は時間を止められているのに自分だけが動いている。
あるいはその逆かもしれない。
実はこの部屋の中でだけ時間が止まっていて、外はもっとめまぐるしく動いているのかもしれない。
そんな妄想はあけられた扉によって打ち切られた。
「俺にはだんまりだったのに敦也とは1時間以上も仲良くおしゃべりか、差別もいいところだな」
部屋の入ってきたのは、一ノ宮の次男一人だけだった。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-