君ト描ク青空ナ未来 --完結--
第二部・10話〜
10
あの後、千晴さんに休みをもらう相談をして、理由を話すとすぐに承諾してくれた。
お世話になった人にご挨拶に行ってきます、と。
それだけで、全てをわかってくれて、がんばってと言ってくれた。
僕が行きたい時、いつでもいいよといってくれたから俊弥さんの休みと合わせた次の週の月曜日に行く事になった。
そして、とうとうその日は明日にまで迫ってきた。
いつも通りに仕事を片付けて、夕食の席につく。
「いよいよ明日ね。心の準備はできた?」
そう聞いてくるのは朱音さん。
「できたのかもしれないし・・・できてないかもしれません、なんかよくわからなくって」
「それでいいんじゃないか」
千晴さんが言った。
「そうですか?」
「本人目の前にして、一番に出てくる言葉が言いたいことだよ。変な事は何も考えない方が良い」
確かに、そうかな。
今いちばん言いたいことはごめんなさいで、会ったら一番にそう言ってしまいそうだ。
「一番伝えたことをきちんと言ってくるのが一番いいから」
「そうね、いろんな建前を並べられるより、そっちの方が心がこもってる気がするわ」
そういわれて、安心した。
会えたら一番に何を言おうとか、なんていわれるだろうとか考えてたけど、今考えてる事をきちんと伝えてくればいいんだ。
7月の初めと違うことはたくさんある。
今はこんなに良い人たちに囲まれて、過ごせてる。
誠司さんとお別れをしても、あの地獄へと戻る事はもうないから。
ちゃんと会って、話して、帰る。
僕の帰る場所は、地獄でも、あの人の所でもない。
今はここが、僕の帰る場所。
翌日。
朝、10時ごろに俊弥さんが迎えにきてくれることになっていた。
それまではいつも通りに朱音さんや千晴さんを手伝って待つ。
10時ごろ、母屋の窓から道路を見てると、車が向かってくるのが見えた。
でも、俊弥さんの車じゃない。
「朱音さん、こんな時間にお客様がいらっしゃる予定ありましたっけ?」
「今?予定ないと思うけど」
「でも、車が向かってきてますよ?」
そういうと、朱音さんも窓から道路を見る。
「俊弥さんの車・・・じゃないわね。もしかしたらここに向かってるわけじゃないのかもしれないわ」
「そうですね」
滅多に車が通る道でもないけど、珍しいこともある。
そう思ってその車から目が離せないでいると、やっぱりここの敷地に入ってきた。
車の音に気付いて千晴さんがその人の応対に出る。
離れの一階に案内するのが見えた。
離れに案内するってことはお客様じゃない。
「朱音さん、さっきの車が入ってきて、離れに案内されてましたけど・・・」
「離れに?じゃあお客様じゃないのね。俊弥さんに関係してるかもしれないわね。空流君も一緒に行きましょ」
「はい」
母屋を出て、離れに向かう。
途中で千晴さんと会って、今呼びに行くところだった、と言われた。
離れに戻って、テーブルに4人が座る。
さっきの車に乗ってきた人は暑くないのか長袖のスーツを着た人だった。
「初めまして、わたくしは仲原総合病院の心療内科医の内田と申します」
その人はそう名乗った。
お医者さんっていうことは、俊弥さんに関係してる。しかも心療内科の先生だ。
微笑み方は、社交的だけど、なんか嘘っぽい。
でもお医者さんってこういうものなのかなって思って、大して気にしなかった。
「本日、仲原先生がこちらの方とお約束があるということでしたが、病院の方で午前中にどうしても外す事の出来ない用事が入ってしまいまして、わたくしが代わりにお迎えに上がりました」
俊弥さんの代わりの人?
なんだ、俊弥さんがこれないのなら、代わりの人なんてこなくったって電車で行ったのに。
そもそも僕は初めから、電車で行くって言ってたんだから。
「連絡できなくて大変申し訳ないとおっしゃってました。先生は12時ごろに時間が空くときいていますので、わたくしが仲原先生にかわりまして、空流さんを先生のところまで送り届けます」
本当に申し訳なさそうにそう言うものだから、こっちもつい、いえいえ、と首を振る。
「それでは、先生と待ち合わせをしておりますので、早速ですが出発してもよろしいでしょうか?」
確かに、それにはあんまり時間がない。
「それじゃあ、千晴さん、朱音さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、ちゃんと言いたいこといってくるんだよ」
「いい顔で帰ってくるのを待ってるわ」
二人が見送りに出てくれて、車に乗った。
向かう先は、東京。
あの人に会うために。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-