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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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33

「誠司さんの迷惑になりたくないんです」
喜田川さんとの会話を聞いてしまったことを正直に話した。
「なるほどね・・・。でも誠司は君のこと迷惑だなんて思ってないと思うけど」
「それじゃあダメなんです・・・。誠司さんが迷惑っておもわなくったって結果的に迷惑になったら仕方ないし。・・・それに、今は迷惑って思わなくてもいつか本当に思われるよな時が来てしまったら耐えられる自信がない・・・」

結局はそれだったのかもしれない。
誠司さんの迷惑になるくらいならと思ってあそこを出た。
でも、本当は誠司さんの迷惑になるのが怖かったんじゃない。
迷惑だと思われるのが怖かったんだ。

「この前、俺が帰ってから誠司は何か空流くんに話をした?」
「話・・・?いつも普通に話はしますけど。でも先生が帰った後は誠司さんも仕事が急がしそうであまり話はできませんでした」
「・・・そっか。結局話してないんだ」
「え?」
「ううん、なんでもない。あと、俺のカウンセリングはもう終わり。だから仲原先生はもうやめようか。そうだな・・・誠司と同じように呼んで欲しいな」
「俊弥さん・・・?」
「そうそう。それでね、今はとりあえず東にむかってるよ。河口湖っていったことある?」
「はい、中学校のときの宿泊行事で」
「そう、そこにペンションやってる俺の友達がいるんだけど、ちょうど人手が一人欲しいらしいんだ」

そこで働いて欲しい、といわれた。
もちろん、わかりました、と言う。

「そいつ、すごく気の良い奴だから安心していいよ。きっと空流くんなら大丈夫だと思うから」

その言葉に頑張ります、とだけ返事をして、前を向いた。
「俺はこのまま東京に帰るから、その途中で送っていこうと思うけど、もし心の準備がまだなら1泊や2泊くらい、近くのホテルを手配しておこうか?」
「いえ、心の準備は仲原先生に電話をした時点でついてますから」
「そう、それならいいけど。あと、先生じゃなくて?」
「・・・俊弥さん、でした」
「よくできました」

そこから車で走ることしばらく、もうすぐだよ、と俊弥さんが声をかけた。
ドキドキと鼓動は高まる。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。確かにあいつは人の好き嫌い激しいし頭固いけど。何かあったら連絡入れてくれればすぐ救出に行くからね」

笑いながらそういう俊弥さんに安堵を与えられて、少し元気が出た。

河口湖をながめながら10分くらい走ったころ、広い庭の中の駐車場に車が止まった。
「さ、ついたよ」
「はい」

俊弥さんに続いて車を降りて、建物の方へ向かう。
2階建てのすごく綺麗な建物。
御伽噺に出てくるような形。

「こんにちは、いらっしゃい。俊弥さんに・・・空流くん?」
突然名前を読んだのは俊弥さんとそう年齢の変わらない女性。
だいぶ印象とは違ってビックリした。
男性だろうと思ったし、頭が固いなんていう風には全然見えなかったから。
「朱音さん、久しぶりです。こちらが、紹介したいっていった空流くん」
「こんにちは」
微笑みながらそう言われて、こんにちはと返す言葉が思わずどもる。
「さ、俊弥さんも空流くんも中に入って。主人も中にいるのよ」
俊弥さんについて、中に入っていくと、想像通りの内装。
シンプルなのに、上品で清潔感のあるリビングに通された。

「俊弥、久しぶりだなあ。元気か?」
「見ての通り。そっちも相変わらず幸せそうで何よりだよ。」
「おかげさまで。それで、うちで働きたい子がいるって?」
「ああ、空流くん、こっちにおいで」
俊弥さんと仲のよさそうに話す男性。
この人も多分同じくらいの年齢。
二人で話すところに呼ばれて、勧められたソファに腰を下ろした。
「まず紹介するよ。こちらが紹介したいっていった空流くん。それでこっちが俺の高校時代の親友の秋山千晴。それに奥さんの朱音さん」
「初めまして。秋山千晴です」
「あ、初めまして。寺山空流です」
「私も挨拶が遅れたわ。秋山朱音です、よろしくね」

千晴さんは、声が低くて、少し気難しそうな感じ。
この人が俊弥さんの言ってた人だ。
頭が固くて、人の好き嫌いが激しい・・なんて失礼だけど本当にそれっぽい。
でも、奥さんの朱音さんのほうは正反対でとっても人当たりが良くて、嫌いな人なんか一人もいなさそうな感じ。

「最近、ここの経営が軌道に乗ってきたの。それでお客様も増えたことだし人手が足りなくなって。アルバイトの方を雇ったこともあるのだけれどうまくいかなくてね」
「最近の若い奴はどうやって育ってるのかわからないよ。時間は守れない、気はきかない、敬語もろくにしゃべれない」
「あなた、そんなこと言うとプレッシャーになるでしょう?空流くん、気楽にやって頂戴ね」
・・・そんなこと言われたあとで気楽になんてできるわけがない。
時間を守って、気を利かせて、きちんとした敬語をしゃべる。まずはこれから気をつけていかないと。
「大丈夫だよ、この子のお母さんはとっても良い教育者だったみたいだから」
俊弥さんがそういってくれた。
「それならいいけどな。空流くん、慣れるまで大変だと思うけど、頑張って欲しい」
「はい」

「それなら、まず住んでもらうお部屋を見せるわね。俊弥さんも一緒にどうぞ。私、頑張ってお掃除したのよ」

席を立つ朱音さんに続いて、全員が席を立った。