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律姫 -ritsuki-
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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第一部・10話〜


10

鷹島さんが部屋を出て行ってしばらくしてから、またノックが聞こえた。
「失礼します。空流さま」
入ってきたのは、中年の身なりの良いおじさん。
「私はこの家の使用人の加川と申します。どうぞ加川と及びください。お食事をお持ちしました」
ニコニコと愛想良く話しかけてきてくれる。
「ありがとうございます」
そう言って、あわてて口を押さえた。
そうだ、今しゃべっても、何も相手の耳には届かない。
「いえ、どういたしまして。といいましても誠司さまのご指示なのですよ」
言ってる事が通じた。
この人も、唇が読めるんだ。
「空流様、お食事はどこにお運びしましょうか?」
ベッドの上で食べる訳にも行かず、部屋を見回す。
窓際に簡単なテーブルセットがあるからそこを指差した。
「あそこで食べてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
そのテーブルの上に食事を置いてくれた。

そこまで移動しなければいけないと思って、ベッドから降りた。
そして、足を床に着いた瞬間、また激痛が走って、床に倒れた。
「空流さま!!」
加川さんが慌ててこっちへきてくれる。
「すみません、大丈夫です」
床に座って、自分の足の裏をみた。
自分が思った以上にひどかった。
裸足でアスファルトの上を何時間も移動し続けたのだからこのくらい当たり前なのかもしれないけれど、今の自分の足の裏には本来あるべき少し赤みのある肌色が存在しなかった。

真っ赤な傷だらけ。
酷いところは赤くただれてる。

「どうした!?」
加川さんの声が聞こえたのか、鷹島さんが部屋のドアを開けた。

「お食事を向こうのテーブルでということになりましたので、移動しようとなさったのでしょう。床に倒れられて・・・」
「向こうのテーブルか」
一言そうつぶやくと鷹島さんは僕の体を軽々と抱き上げて、テーブルセットの椅子に落ち着けた。
「さ、召し上がってください」
鷹島さんは向かいの椅子に腰掛けた。
「それでは誠司さま、空流さま、また食べ終わった頃に参ります」
「ああ、頼む」

加川さんが、部屋を出た。

声は出ないけれど、手を合わせていただきます、という。
「どうぞ」

久しぶりに摂るまともな食事は美味しかった。
あんまり重いものもなくて、食べやすい。
きっと気を使ってくれたんだ。

「空流、食べながら聞いて下さいね」
鷹島さんがスーツのネクタイをゆるめた。
「一ノ宮の方には私から話を通しておきました」
一ノ宮!?
あの人たちに話を通せるなんて・・・。
電話番号も教えていないのになんでこの人は知ってるんだろう・・・?
「そんな驚いた顔をしないでください。会社の取引で少しつながりがあるのですよ。話はあなたのことを私が預かるという形で落ち着きました」
「はい」
「足の裏が完璧に治るまでは歩けないでしょうから、何かあったらすぐに私か加川を呼んで下さい。加川には今はここの管理を任せていますが、もともとは私の養育係だったのですよ」
養育係・・・?
「私が一番信用している人間も彼です。安心してください」
「あの、鷹島さんは何をなさってる方なんですか?」
養育係が居るなんて、そんな人はみたことない。
僕だって中学校までは普通に生活してきたはずなのに。
「すみません、もう少しゆっくり。それかまた書いていただけますか?」
そうだった。僕、しゃべれてないんだ・・・。
ある程度までの言葉なら、唇を読んでくれるから普通にしゃべれてる気になってた。
紙を受け取って、さっきのと同じ言葉を書く。
「私、ですか。そうでしたね、空流のことはたくさん話していただきましたけど、私のことは何も話していませんでした。怪しまれても仕方がないですね。すみません」
その言葉に、慌てて首を振る。
「鷹島グループというのをご存知ですか?」
その言葉にも首を振る。
「そうですか。町を歩いてて鷹島ホテルですとか、鷹島マンション、などという
文字を見かけたことはありますか」
それなら、ある。
「あれらを取り仕切っているのが鷹島グループなのですが、私はそのグループの会社の社長をいくつか兼任しています」
会社の、社長・・?
でも、その前に鷹島グループでこの人が鷹島さんってことは・・・
「鷹島グループ総裁の長男です」
思わず、持ってた食器をテーブルに落としてしまった。
なんだか、それってものすごい人なんじゃ・・・?
財閥・・みたいなものだろうか?三井とか三菱とかみたいな。
・・・とにかくこの人はすごい人なんだ。
「それから、私のことは誠司と名前で呼んで下さい」
「誠司さん・・?」
相手には聞こえていないだろうけどそう呟いた。
それでもわかってくれて、少し微笑んでくれた。
笑ったところ、初めて見た。笑うと結構若く見える。
「いきなり知らないところに連れられてきて不安かもしれませんが、何か困った事がありましたらすぐ私や加川に言ってください、いいですね?」
念押しをされて頷いた。
出された食事を食べ終わったから、箸を置く。
「おかわりを持ってきましょうか?」
その申し出には首を振る。
昔だったらこのくらいの量はあっという間に平らげたけれど、すっかり小さくなった胃袋ではもうお腹一杯だった。
「そうですか。それではまた少し休んでください。夕食は一緒に取りましょう。時間になったらまた起こしにきますね」
誠司さんはまた俺をベッドまで運んでくれた後に、食器を持って部屋を出て行った。

ベッドに横になって目を閉じると、すぐに眠くなった。