試作 1
short 2
海から来る潮風、何時もであれば気持ちがいいと感じるのかもしれないが今日は違っていた。
なんともねっとりとした湿気と潮風の熱い風とが相まって体にまとわり付く。
こういうときは、校舎の近くにあるカフェ「デマンド」にでも言ってきんきんに冷えたアイス珈琲を飲みたい。
というわけで、自分はそこにむかっているのである。
手には、一冊の古書、そして何時もどおりにホログラム電子ノート。
肩には一個の軽い鞄。
世間はもう夏休みに入っているこの季節であるが、寮も完備され生徒達に実家に帰る用事が無い限りここに居ることを余技される
専門学生はみな、思い思いに部活に精を出したり専門学問に磨きを掛けたりと忙しい。
かくいう俺は、実家に帰っても変人呼ばわりするだけなので帰りたいとも思わず、夏休み前の集団帰国の書類にサインすることはなかった。
寮から一直線に続く長い、散歩道。
そこは、海風を直接に受けるポイントであった。
目の前を歩いてくる、特徴のある制服に身を包んだ生徒。
「ヨシト!」
「・・・?」
声に反応した前髪に赤いメッシュを入れた青年。
一瞬不審げな表情を浮かべた彼であったが、すぐさまいつもの人懐っこい表情を見せて肩を叩いてくる。
「なぁに、お前。実家組じゃなかったわけ?」
「俺は、実家に嫌われ組。」
「・・・ああ〜。そっち系。」
「・・・んで、お土産は?」
隣のクラスの『ヨシト・ビレンバーグ』は、昨日までの大戦で海外の飛行艇に乗ってたと聞いていたので2日前のメールでお土産を催促していたのだが、
彼はそれを見る余裕もなく、戦地から舞い戻ってきた。
「そんな余裕あるかよっ、こっちは命はって戦って来てどこに土産買う場所があるのかも探す余裕なかったわ!」
「ええ・・・、俺はただあっちの国のパソコン部品がほしかっただけなのに。」
「非国民言われるぞ、お前!そのうち。」
笑顔でそういうと、白い歯を見せる。
指令に挨拶に行くから話は後でとヨシトは、そういい残すと小走りに第二校舎へと走っていく。
その背中越しに、デマンドにいるからな〜と大きな声で、言うとヨシトは後ろ手にゆっくりと手を振った。
第二校舎は、赤く染まった光を発しながら、警戒態勢のような色合いを見せている。
あそこの人間は、戦争が好きというかゲームお宅というか?
思わず首を捻りながら肩からずり落ちそうになった鞄を引き上げて、自らも歩き出す。
自分の校舎は、第一で白いすんなりとした色合いをした校舎である。
森の木々に囲まれたリラックスした雰囲気を漂わせるその校舎は、13まである校舎の中でも異質なものある。
たとえば、さっきのヨシトのいる第二校舎は、森から外れた島の端の崖沿いにあり万が一の場合にすぐに出動できるようにできているし、
第六なんかは、島の中央にある池の中、水中に校舎がある。
話に聞くその中の生徒は魔法が使える種類らしく、水なんかへっちゃらだってことだ。
俺が、そこの生徒だったら持ってるパソコン全部だめにすんな・・・。
俺の力発揮できないし、そもそも水にもぐれない・・・。
がしがしと頭をかきながら、森の入り口へと足を踏み入れる。
カフェデマンドは、すぐそこである。