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良き月の夜に Blue moon rises good ni

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 色々とやっぱり妄想膨らむお年頃ですが、別にそんな下心だけじゃないんだからね!
家賃だって半分で済む、お得じゃない? 思考は至って冷静だが、体は意に反して重い。
そんなわけでリビングのお床にごろりんこしてたらガタッって音がした。
「ねぇ、アキラ。今なんかあの部屋から音がしたよ」
「そう? なんか積んどいた物でも落ちたんじゃない?」
興味なさげを装ってるみたいだけどわかりますよ、あの部屋を隠したいって顔してますもん。わかりますよ、女の観以上にね。ではさて、どうしたものか?
『あの部屋に入るには』
 と、考えてしまうア・タ・シ。
 心理戦は苦手だから、強行突破かしら。
 別にスマートな方法を使わなくてもいい位に気分がいいだけ、ただそれだけ。
「泥棒だったりね」
「それはないでしょ」
「わかんないよぉ」
 必要以上にからんでみる。
「他人の部屋を覗く趣味は俺にはないし、君にゴーサインを出す気も無いって言えばわかるかな?」
 こ、これはもしかすると浮気肯定発言か・・・・・・同棲カミングアウトでよね、冷静に考えて。
「妹の部屋」
 よほど顔色が悪かったのだろうか? 先にフォローされた。ただ飾ってある水仙を見て昔ニラと間違えて死に掛けてたのを思い出してただけなのに。
「妹さん居たんだ」
 初耳だよ。なんだ、ちょっと安心した。どおりでアキラから女物の香水の匂いがしたんだ。
 安心したら急に眠くなってきた。

 5

 ようやく彼女が寝た。
「もう出てきても平気だよ」
 誰に聞かせるでもなく、ぼそりと。
「そう?」
 不安げな声。
「なら、まだそこにいてよ」
 そっけなく俺は答え彼女をどうしたもんかと考え、とりあえず毛布でも掛けて起きるのを待つか。
 さて、どうしたもんか。
 時間だけはあるが、時間しかないというべきか?

 彼女は結局十時頃に起きた。
「おはよう。時間的に言えばおやすみなさいの方が正しい気がするけど」
「そんなに寝てた? しょうがない、今夜はお泊りね」
「電車も何も止まってないし帰ればいいのに」
 苦笑するしかない。最初からコレが狙いか?
「まるで泊まってって貰いたくないような台詞ね」
 その通りだよ。
「そしたら明日のレポートはどうすんの?」
「明日なんかあったっけ?」
 本気で忘れてるらしい、それ自体は別に構わないけど。 
「菊川先生の感情論的経済学」
「真顔で皮肉言わないの」
 呆れた口調とは裏腹に笑ってる。

 6

 さて、彼は今シャワー中だろうか? 結構大胆というか、襲う気満々? みたいな。
「彼が部屋にいないのはチャンス」
 さっきの部屋へこっそり侵入、するとそこには女物の服が適当に放置されてた。
「随分雑なのね、妹さんは」
 女の子の部屋というよりは物置っぽい。それに、コスチューム系の服が多いし・・・・・・彼氏の趣味か? 
 そういえば此間初めて来た時はこの部屋には入ってなかったな。それにしても、この部屋にだけは鏡はない。
「妹さんは鏡がお嫌い?」
 誰もいない暗い部屋で一人呟く。

 足音を立てないように玄関までちょいっと移動。まだバレちゃいないみたい。
 靴置きを調べると、女物の靴はない。
「ふーん、もしかしたら、そーゆーことね」
 大体はわかった。
 じゃあ、また寝るか。今日は朝早かったからまだ寝れる。
 ベランダを見る。カーテンで隠れているが、人が一人位なら余裕で隠れられるな。まぁ、多分間違いないな、そう確信して、また眠る。
 
 7

 Side-he 1
 彼女は帰り際にこう言った。
「妹さん遅いのね」
 ・・・妹? ああ、そう言ったんだっけ。
「今年受験生だからね、夜遅くまで塾だよ」
「大変ね、お兄ちゃんは。じゃあ、妹さんによろしく言っといて」
 そう言って手をひらひら振って「バイバイ」と言いスキップしながら階段を降りていった。
「大変ね、お兄ちゃん」
 耳元で甘く囁かれた。
「まったくだ」
「彼女が帰った途端に元気になるなんて薄情ね」
 声が嬉しそうだよ。
「そうね、嬉しいわ。凄くね」
 それはよかった。

Side-she 1
 ふふんふんふん、ふふんふん。
 鼻歌歌って気分がいいのを赤の他人にまでアピール。
 周りの人が波が引くように離れてく。歩きやすくて本当助かるわ。
 とりあえず、浮気騒動に一段落着いたし、今日は気分がいいぞ。最高にハイってヤツだ。
「まさか、いや、やはり、と言うべきかな?
どうして私が選んだ男はどうしてああゆう手合いばかりなのだろうな? アイツに言わせれば、男運が無いというんだろうな」
 誰だって思いつくだろう、玄関に靴が無く、女物の香水を風呂上りの人間が漂わせているはずがない、と。そして、こんな結論に行き着くわけだ。

 女をベランダに匿ってた、とね。

 恋愛に浪漫を感じたいなら物語だけにしておけばいい、リアルはそうはいかない。

 Side-he 2
 彼女に寄りかかるように、全身の重みを鏡に預ける。
「これでもう邪魔は入らないよ」
 吐息で彼女の顔が一瞬見えなくなるが、時期に彼女の顔が見えてきた。
「そうね、これで邪魔が入ったら興醒めね」
 辛辣な言葉の棘。それは彼女の気高さ故。
「でも、もう離さないわ」
 彼女の頬へ手を伸ばす。
「ふふふ」
 悲しげに微笑む彼女。
「どうしても届かないわ」
「でも届かせたい」
「詩人なのね」
「そのうち酒浸りになるよ」
「そしたら私と会えないわ」
「それでも、君に触れられないのは辛いから、やっぱり酒に逃げるかも」
 どうして何時もこんな事しか言えないのだろう。彼女の悲しげな表情を和らげたいのに。近くて遠いこの距離を、どうやって埋めるのだろう?

 Side-she 2
 これは酷い失恋だ、全くもって笑っちゃうよ。思わず心友に電話してしまうほどにね。
 公衆電話に十円玉を連コイン。ゲーセンでは連コインなんてした事無いのに・・・・・・。
「こんな時間に掛けてくる非常識は矢萩だな?」
「失恋の痛手の友達にいきなり詰問調? 相変わらず冷たいのな、唯乃(いの)」
「お前の男運の無さは知っているが、こんな夜中に振られるなんて・・・・・・やるだけやってポイされたか」
「何アッサリ酷い事言ってるの?」
「何? まだそんな男を庇うのか? 呆れた女だ」
 どうやら勘違いしてるみたいだ・・・…説得というか、説明というかにどれ程の時間が掛かるのだろう?
 ―説明中―
「なんだ、そう言う事か。で、今度の男はどんな性癖だった? 何時だかみたいに両刀使いか? それとも同性愛者のカモフに使われたか?」
「よくそんなのホイホイ出てくるね?」
 電話口から失笑が漏れた。
「当たり前だ。お前はそんなどうしようもないのをピンポイントで引いて終いには、脅すからな。その性癖をバラすぞ、と」
 
 Side-he 3
「泣かないで、かわいい人」
 涙のせいで彼女が見えない。また、彼女も同じで俺が見えないだろう。
 互いに自身の涙を拭く。
「君の涙を拭えたら」
「私もそう思うわ」
 互いがそっとその境界線に手を重ねる。
 鏡という名の境界線に。

 Side-she 3