彼方よりの土産
「ダメだ。衛星を破壊しよう」
アトランティス人、木星方面司令官、イフォス・ナビが重い決断を下した。
木星にある五つの巨大衛星(現在、巨大衛星は四つ)のうち、最大の質量をもつタルトポス。
それを周辺に影響を及ぼさない大きさにまで破壊・粉砕しようというのである。
直径にして月の三倍、木星圏で唯一の人類のコロニー。
そんな貴重な衛星に破壊命令が出されたのには訳があった。
辺境の地でも人類が困らないようにと開発した、動く植物・アラキドが大繁殖し、衛星全体に胞子を撒き散らしたのだ。
それが何故深刻な事態なのか・・・。それはアラキドが出す芳香にあった。
ジャスミンの様なその匂いの中に、人を惑わす成分が含まれていたのである。
猫におけるマタタビの比ではない。人類全体がゴロゴロ喜び、死ぬまで働かなくなるのだ。
たちまち衛星タルトボスは機能マヒし、人々の生活は破綻した。
「アトランティス人は、先に地球からも疫病の蔓延の為、脱出したというのに、今また木星を失うのか・・・。」
イフォスはため息をついた。
「破壊! そして我らはシリウスに移る」
音のない宇宙に、音のない大爆発が起き、アトランティス人は遠くの宇宙へ去って行った。
こうして・・・・・・・・
衛星タルトポスが破壊され、三万年がたったある日。
そのかけらの一つに新しい文明の使者が舞い降りた。
「はやぶさ」と呼ばれたその探査機は、かっての衛星タルトポスのカケラで、今はイトカワと呼ばれる巨岩から、小さな塵・一粒をカプセルに入れて地球に持ち帰った。
むろんその塵の中に、まだ生きているアラキドの胞子が含まれていることなど、知る由もなかった。
ゴロゴロゴロ・・・・ (おしまい)
作品名:彼方よりの土産 作家名:おやまのポンポコリン