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王子さまとお姫さま

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入口を探してぐるりと塔の周りを回ってみた王子さま。
けれど、どこにもそれらしいものはございません。
途方に暮れて入口はどこですかと聞いてみましたが、お姫さまは窓から顔もだしてくれません。
そんなものはありません、と素っ気無く答えるのみです。
王子さまは困ってしまいます。
困って困って困って困って、何度も何度も塔の周りをぐるぐる回っていました。

そんなことをしていると、三ヶ月が過ぎ去っていました。

お姫さまはまだ塔の最上階に閉じこもっています。
王子さまが何度呼びかけても、相変わらず顔すらだしてくれません。
「姫!いい加減降りてきてくださいませんか!!」
「嫌です。」
王子さまの言葉をばっさりと切り捨てるお姫さまの声。
苦笑いして王子さまはがっくり肩を落とします。
何度も繰り返した問答です。
王子さまはこの程度ではめげません。
「せめてお顔だけでも拝見させてはくださいませんか!」
いつものようにそう言います。
「嫌だと何度も言ったはずです。」
お姫さまもいつものようにそう答えました。
何度も何度も繰り返したやりとりなので、王子さまはお姫さまの答えを知っていました。
知っていましたが、それでも少し悲しいです。
見上げる窓からは髪の一筋も見えません。
それもいつも通りです。
王子さまは、とても美しいお姫さまがいると聞いてこの塔へやって来ました。
とてもとても楽しみに思いながら、この塔へとやって来たのです。
だから王子さまは悲しくなるのです。
とてもとても悲しくなることもあるのです。
それでも王子さまは諦めの悪い人なので、何度だって顔をあげるのです。
「どうして嫌なのですか?せめて理由をお聞かせください!」
この質問は久しぶりです。
いったい幾日ぶりでしょうか。
もしかしたら一番最初、三ヶ月前のあの日以来かもしれません。
前回、お姫様は答えてはくれませんでした。
うんともすんとも言ってくれなくなって、随分王子さまを心配させたものです。
「理由などありません。ただどうしても、絶対に、なにがなんでも、ここから出たくないだけです。」
今度は答えてくれました。
答えてはくれましたが、いつも以上にきっぱりとした口調です。
どうしたものかと、王子さまは途方に暮れてしまいます。
このところ途方に暮れてばかりです。
いっそのこと無理矢理引きずりだせばよいのにと、遠くからふたりを見守る王子さまの従者は思います。
けれど王子さまは王子さまなので、とても育ちがよいのです。
無理矢理だなんて思いつくことすら不可能です。
「どうか王子さま、わたくしのことなどお忘れください。そしてさっさとお国にお帰りください。」
「それは嫌です。」
「どうしてです?あなたは大切な方でしょう?」
「私は三人目ですから。兄上達は健康な方ですし、争いが起こるような不穏な空気もありません。きっと私がいる方がお困りになるでしょう。ですから私は気が済むまでここにいるつもりです。」
ふんわり王子さまは微笑みます。
王子さまに見えないようこっそり外を窺っていたお姫さまは、その微笑みに頬を染めてしまいました。
ちょっと胸も高鳴っているように思えます。
「私はあなたのことが知りたいのです、姫。」
王子さまは窓に向かってそっと腕を伸ばします。
眩しそうに目を細め、お姫さまの影でもいいから見えないかと熱心に塔を見上げます。
「……後悔しませんか?」
背筋が凍りついてしまいそうな声が、窓から降ってきました。
王子さまは少し面食らって、ぱしぱしと目を瞬かせます。
けれどすぐに気を取り直し、にっこりと笑って、
「はい、絶対に。お約束します!」
元気よくそう言いました。
ざわりと塔を囲む森の気配が変わります。
なにやらどす黒い感じです。
例えばそう、とても力の強い魔女や魔物が側にいるような……。
王子さまは少し怖くなってきました。
「はじめまして、王子さま。」
窓枠に腰掛けて、ひょい、と足を外に投げ出したお姫さまが現れます。
やっと姿を見れたことへの喜びが、王子さまの頬を赤く染めます。
けれどすぐにその体勢は危険だと気付き、王子さまはお姫さまに注意します。
「いいえ、いいえ王子さま。危険だなんてものはなにもないのです。わたくしを心配する心があるのなら、わたくしが姿を見せたことで消えていく生命があることを悲しんでください。」
「それはどういうことですか?」
そう尋ねる王子さまに、お姫さまは周りをよくご覧くださいと答えます。
言われたとおり、王子さまは辺りをゆっくりと見回しました。
なぜでしょうか?
先程まで美しい緑であった森が、どんどん色褪せていきます。
仕舞いには枯れ落ちていくではありませんか!
「わたくしは呪われているのです。生まれたその瞬間に魔女に美しさを約束され、その代償に弱いものの生命を喰らう。そういう邪悪な存在なのです。」
「それではこの森に動物がいないのは、今森が枯れ果てていくのは、あなたの所為だというのですか?」
「そうです。この呪いはわたくしが誰にも姿を見せなければ効果を発しません。ですからわたくしはここから出たくないのです。」
そう言うとお姫さまはまた塔の中へと戻ってしまいました。
王子さまはその様子を泣きそうな顔で見守ります。
「その呪いを解くことはできないのですか?」
「呪いをかけた魔女は死んでしまいました。もう誰も術を知りません。」
「ではその呪いがある限り、あなたはずっとひとりなのですか?」
「えぇ、そうです。」
「それは寂しくはありませんか?」
「もう慣れてしまいました。」
「私は寂しいと、そう思います。」
「だからどうしたと言うのですか?」
王子さまのどこか先程よりもしっかりした声に、お姫さまはいらつく思いを隠さず返します。
「私はずっと、この塔の下にいようと思います。」
「どうしてそうなるのですか!?」
お姫さまの怒声が聞こえたかと思うと、王子さま目掛けてクッションが降ってきました。
遠くからは考え直すよう叫ぶ従者の声も聞こえます。
けれど王子さまは言います。
クッションを受け止めて、しっかりと窓を見上げ、その向こうにいるお姫さまに。

「私はずっと、あなたがそこからでてこれるようになるまで、ずっとずっと、ここにおります。」

瞳は優しく細められ、口元には穏やかな笑みを浮かべて、王子さまは誰にも曲げれぬ想いを告げました。
お姫さまはなにも言えません。
ふたりの間に沈黙が落ちました。
この三ヶ月間、起こられることは何度もありましたが、そういえば物を投げられたのは初めてのことです。
相当怒らせてしまったようです。
もしかしたらまた当分会話を拒否されるのかもしれません。
そう考えると薄暗くなってしまいそうな王子さまでした。
「……もうお好きにしてください。わたくしは知りませんからね。」
「はい、ありがとうございます!いつかきっと、一緒に帰りましょうね。」







四年後、遠く西の国で第三王子の結婚式が盛大に執り行われました。







めでたしめでたし
作品名:王子さまとお姫さま 作家名:ひろは