よのなかばかなのよ 2.母宗教まがいのことを始める
カンパーイ!じゃあまずは自己紹介しようか。それじゃ先輩からお願いします。
ええと、湯中智子です。
山の手線は外回りより、内回り派です!よろしくお願いしまーす……
……
……なにかなーこの空気??
誰も話しかけてくれなーぃ。ちょっとしたお茶目な小ボケじゃーん。
ねえ。知ってる?
ムシって一番シンプルないじめだってこと。元々アウェイなのがさらにアウェイ!!
ここはどこ?同じ空間にいるのにいないみたいな。四次元空間ですか?!わたしはここにいます!! 誰かわたしを救助して! 孤独で死にそうだ! ……おーそうかい。そっちが来ないんならこっちから行ってやる。
……あの、山田さん?普段はなにやってる人なんですか??
……あ、はぁ。普段は空気吸って生きてますが
……なによ!ちょっと顔がいいからって!!調子のってんじゃないわよ!!
ガラスのハートが音をたてて崩れ落ちたじゃないの! ……もういいや。会計だってワリカンだろうし。いっちょ飲むか。
あ、すいません!吟醸お願いします!!
ちょっと!先輩!!ここ、コースなんで、無理です!!喉渇いたんなら水でも飲んでて下さい!
……恥ずかしめられた。おいおい……お前らはきゃっきゃっ楽しくて良いだろうが。まったく蚊帳の外のわたしはどうしろってんだい。のむしかないだろ!!
ングッ!ングッ!プハーッ!
うん。東京の水は不味い。濃厚なカルキの味、隠し味的にきいてくるサビ、ふんだんにミネラルを含まない、そうこれが東京クオリティ!!……あー、水のテイスティングなんてしてる。わたしってよっぽど暇な女なのね。……あれ?帰るの? それとも代えるの??……ちょ……こら!!
みなさん!うれしいお知らせです!今日はお母さんが株で儲かってる湯中さんのおごりでーす。
……へ?なにそれ!!わたしには不幸の知らせだよ!!つーか!儲けてんのは母親であって!
わたしではない!
よってわたしは金がない!
どうだこの三段論法!
つーか最初っから奢らせるんなら。もっと下手にでろよ!!わたしに媚びろ!!ひざまずけ!靴ぐらいなめろ!そんで、落っことしたガラスのハートをボンドでくっつけろ貧民どもめ!! ああどうしよう。奢らされてしまう……
……わらひはだへ、あたまがくらくーらぴーひゃらぴー……あっははっは……
あれ、先輩??
……ぴーひゃらぴーらのよあっはっは……どどど……くくく……にゃはははは。
……あー、無理だ完全に出来上がってるわ。チッ!使えねえ。みんなやっぱりワリカンで。
てか、大丈夫かあれ?
いいの、お茶近くに置いてほっときゃ大丈夫よ。もう良い歳なんだから。じゃ二次会行きましょ。
あぶないあぶない。でもさすがに良い歳は結構堪えるな……
後日。後輩が対応がやけに丁寧なった。馬鹿にするというよりは、畏怖の情を感じているみたいだった。
おかしい。
そんな時に、後輩のカバンからちらり。母親の名前が。二度見した。間違いない。
あれは母親の書いた教典だった。入信済みか?だとすると、後輩たちのわたしの呼び名は……
教祖さまの娘。
もう勘弁してくれ。
作品名:よのなかばかなのよ 2.母宗教まがいのことを始める 作家名:田中恵