よのなかばかなのよ 1.聖書を拾った
買い取りでお待ちの湯中さん。査定が終わりましたので買い取りカウンターへお越しください。
はーい。
湯中さんですね。今回買い取りの品一点で100円になります。
……安ッ! ……ま、いいや拾った本だしぃ。
そんなわけで、売ったお金で本を買った。
100円で売ってた「億万長者になる本」
これでわたしも億万長者だ! とか思っていたわたしは浅はかだった。
著堀江貴文
まあでもせっかく買ったので、とりあえず読んでみた。なかなかおもしろくてこれなら億万長者にもなれそうだった。
だんだんその気になってきたので社名を考えてみた。会社名って大事だよね。なるべく印象の強いのがいいよね。
グッドウィル、舟場吉兆、ミートホープ、不二家、天洋食品……
……うーんなかなかインパクトがないねぇ。こんなんじゃ誰にも憶えてもらえないよ。
コン!コン!
誰かしら?こんな時間に。
ガチャッ
智子ちゃん!元気か心配で母さんわざわざやって来たのよ。連絡もくれないし。
ほら、お土産!あんたの好きないかの塩から!
独り暮らしは辛くない?
辛かったらいつでも戻っておいでよ。
心が温かくなるのが家族なのである
で、本題なんだけど。あんたいま結婚を前提とした彼氏いるの??
もう適齢期も後半戦に突入よ!あっというまなんだから!羊水も腐るわよ!
いない??
彼氏の一人も?
その年になって?
心に土足でずけずけと入ってくるのも家族なのである
いないんでしょ?そんなことだろうと思って母さん今日は縁談をいくつか持ってきました。
……うぐぅっ!やっぱりかい!!
テレフォンショッピングみたいなプレゼンだなぁおぃおぃ
まずこちら、地元の青年団の岩田さん……
次に消防団の岩山さん……
次は……
…………
なんかイモくさいのばっかりじゃないかッ!
大体なんだ地元の青年団って!!
この人もう五十越えてんじゃねぇか!!
つーか娘にそんなジジイ紹介すんな!!
喉で辛うじて止めた言葉を。
ぐっ
とこらえて。
母さん?見合いはもういいから。
相手ぐらい自分で決めるから。
すると少々ふくれて。
……あらそう。
と塩からをつまむ。
あれ、あんた何この本?
億万長者になる本?ムリムリ!!彼氏の一人作れないひとが億万長者になんかなれないわよ!第一、億万長者になる本が100円て詐偽じゃないの!!
……たしかに。
そう思うと馬鹿馬鹿しく思えてきた。
捨てるのももったいないのでその本は母親にあげた。
いらない。
と言われたが無理矢理押し付けた。
あれから1ヶ月。今母親は株にハマっている。
作品名:よのなかばかなのよ 1.聖書を拾った 作家名:田中恵