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嘘つきな彼

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彼は突拍子もない嘘を付く。

例えば彼が今使っている携帯は、前に海の底に水没したという。

塩水に弱い電子機器が、なのにまだ動いている。
それだけでも眉唾なのに、彼は所々が針で突いたかのようにドット抜けした面を翳し、悪びれもなくこう言う。

落ちた時、どうやら携帯カメラのシャッターが勝手に作動したみたいなんだ。
ほら、その時の写真。

 そう言って見せてくれた写真は、水の中のように歪んで、一面が真っ青だった。

「ほら、ここに魚の背びれと……俺が捨てたペットボトル」

 確かに、彼のコツコツと指さす先には、魚の尾びれのようなものと、何か半透明の容器が映っていた。

「でも……ジップロックや防水ケースに入れた、普通のカメラや携帯でも、撮れる画像よね?」

 そう言うと、彼は無言で苦笑して、携帯と私をカウンターに置き去りにして、トイレへと行ってしまった。

 彼がトイレに行っている間に、内緒で手に取った携帯からは、ぽたりと塩水が滴って、耳に宛てると、海の音と、ほんのりと潮の香りがした。
作品名:嘘つきな彼 作家名:刻兎 烏