夜長
冷たくて、寒い。凍えるような風が身を包む、そんな夜。
月こそ見えないが、星の光でほんの少し辺りが見渡せる程度は明るい。
「……はは」
一人の少年が自嘲気味に嗤う。
場所は暗くてよくわからないが、そこには少年一人しかいないようだった。
少年は工事現場にあるような長い鉄筋に座り、寝ているような、ゆっくりとした呼吸を続けている。その目線は覚束ず、どこを見ているのかは断定できない。ただ、暗闇を見ているとしか。
「……冷たい」
雫が鉄筋に落ちる。
少年は泣いている、さめざめと。
その少年の心を知ってか知らずか、風は彼を包む。けれどその身を切るような冷気は彼をもっと惨めな気分にさせるだけだった。
少年に帰るところはない。俗に言う家出だ。なので彼はこの凍えるような空気に耐えなければならない。
彼は一旦鉄筋から下りた。そして暗闇へと姿を消した。
時間は過ぎる。過ぎているはずだ。けれど未だに夜は明ける気配すら見せない。
今日はいつになっても月が見えないらしい。
少年は眠ったのだろうか、それとも家に帰ったのだろうか。
少なくとも、彼がいなくなった鉄筋に零れたはずの涙には、拭き取ったような跡が残っていた。
草は揺れ、風は踊る。
夜はまだまだ終わらない。
今日の夜は、長い。