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結城 あづさ
結城 あづさ
novelistID. 10814
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赤薔薇の庭

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「浅井さーん」
 ボロマンション633号室。ここは美術大学生、浅井紅明(あさいこうめい)の部屋だ。呼んでも返事は来なくてただギシギシと今にも建物が壊れそうな音が響く。
 「いるんでしょー」と言ってパンクな格好に黒髪ロングにゆるいウェーブの髪をしたここのマンション514号室に住む長嶋梓(ながしまあずさ)が部屋に入っていった。
 絵の具で汚れている壁や床。キャンバスが散乱している部屋には誰もいない。
「ホントに留守なのかな?」
 一応、洗面所に行ってみた。いた。洗面台に水を溜めたまま顔を突っ込んで寝ている1人の男が(息はしないのか?)
「浅井さん、死にますよ?」
「…あ?…寝てた?」
「寝てたよ」
「最近寝不足で」
 この会話が微妙にずれているのが浅井紅明。相変わらずのよれよれTシャツには絵の具がついていてそして眠たそうな顔、寝癖頭をしている。
 紅明は起き上がりタオルで顔を拭きそのタオルをそこらへんに投げた。梓はそのタオルを「ダメだよ」と拾いあげてこれも絵の具だらけの洗濯機に入れた。
「朝ご飯、買ってきたよ」
 梓は手に持っているビニールを紅明につきだし1つだけコンビニのおにぎりを取った。紅明もおにぎりを出すと食べた。そしてムスッとした顔をした。
「おにぎりは鮭と言っただろ」
「なかったの」
「じゃぁ隣まで行って買ってこいよ」
「いやだよ!」
 今日も言い合いが始まった。鮭おにぎりが無いことはそう珍しい事ではない。ボロマンションの近くだけあって品揃えがかなり悪い(たまに飲み物しかない。)だからいつも口喧嘩になるのだ。
「なに?今日もやってるの?」
 気づかないうちに入ってきたみたいで、2人の隣には神崎奏(こうざきかなで)が立っていた。少しハスキーボイスなのだがよく似合う。髪は綺麗な金髪のさらさらショートで顔も綺麗な髪を台無しにしないぐらい綺麗なのでハーフかと思うぐらいだ。奏は紅明にとっての幼なじみ。そして元家族。そして兄弟に近い存在だ。そして奏は最近、このボロマンション“レッドローズガーディアン”に引っ越してきた住人である。

†  †  †

 古びたヨーロッパの大きな塔のような建物。赤い薔薇が咲き誇る広い庭。壁からはギシギシと今にも建物が壊れそうな音。
 珍しくこのボロマンションの前にトラックが並ぶ。ダンボールを中に入れているということは引っ越しだ。このボロマンションには引っ越してきてくる人は殆どいない。理由はボロだけではない。
 ここは変人の集まるマンション。お化けのような美術大学生や猫の家に住む女。管理人はペンギンの着ぐるみなど。このボロマンションには変人が集まる。馬鹿に広い赤い薔薇が咲き誇る庭もある変人が管理している。そんなボロマンションに珍しく住人が増えるのだ。
 そんな事に気づきもせずに紅明と梓は633号室にいた。
 梓はちなみに19歳だが学生ではない。マンションの人たちに雇われている。その1人、紅明には月5万で雇われている。
 バイトの内容は絵のモデルだ。ただジッとしておくだけだが結構きつい。たまに脱ぐことだってある(その時は別料金を請求する。)
 今日は脱いでいて梓の頭の中はいくら請求しようかだけだった。紅明も絵に集中している。
 そんな訳あって引っ越しの存在に気づかなかった。
…いきなり訪問してくるまでは…
 ガチャリ…バン!と音を立ててドアが開いた。いきなり過ぎて2人が固まっていると入ってきたのは綺麗な女の人だった。
「コウ君!」
「!?」
 入ってきたかと思えばいきなり紅明を見つけ抱きついた。ほぼヌード姿の梓の前で。梓は悲鳴も上げずただただ冷静に近くにあったバスタオル(これにも微妙に絵の具がついている)を巻いた。
「この子だれ?」
 やっと梓の存在に気づいた彼女は梓に指を差しながら聞いた。
「俺のモデル」
 紅明は彼女の手を取り払いながらぶっきらぼうに答えた。彼女は「ふぅん」と頷くと梓の方へ歩いてきてタオルの中を見た。
「コウ君~こんなにくびれのない子で大丈夫なの?」
 さすがの梓も顔を赤くした。しかしそれと同時に彼女にも「あなたにも全然胸がないじゃない!」と言いたくなった。紅明は「どんな体系だろうが構わん」と梓を気遣う言葉はなく言った。また彼女は「ふぅん。…あぁ…そう言うことか」と何かをひらめいたみたいに頷いた。
「まだ引っ越し終わってないんだ。また後でくるよ」
 彼女は手をふると紅明の部屋から出て行った。紅明はため息をつくと「さっさと仕事再開するぞ」と梓に目線を送った。
「さっきの人…だれ?」
 とタオルを脱いで元の姿に戻ると動かないように気をつけながら聞いた。「神崎」と名字だけ紅明は言うと後は絵に集中しているのか神崎について話すのが面倒なのか黙った。


 絵を書き終えて(また明日もやるのだが)梓が着替え終わったぐらいにちょうど神崎が入ってきた。手には蕎麦が熱そうに湯気を立てながら3つおぼんに入ってあった。
「ほらほら引っ越し蕎麦だよ!」
「普通引っ越し蕎麦は引っ越し中に食べるんだがな」
「あ!そこの君も分もあるよ」
「ありがとうございます」
 神崎が「かたっくるしいなぁ」と蕎麦を絵の具だらけの部屋に躊躇無くのせたので、言葉に甘えて蕎麦を食べた。猫舌の紅明は1口入れようとしたが熱かったため未だ冷やしている。
「あ!」
 神崎が何かを思い出したようだ。梓はキョトンとした顔をした。
「まだ自己紹介してないや」
「あぁ!」
 梓は紅明に名字を聞いて自己紹介をしたつもりでいたのですっかり忘れていた。「神崎奏」
(奏って名前なんだ…)彼女にピッタリの名前だと思った。
 梓も名前を言って握手をした。奏が「呼び捨てでいいしタメ口でいいよ」と言うのでお言葉き甘えて。紅明はやっと蕎麦が冷えて食べれるようになったのかお構いなしに蕎麦を食べていた。
「ところで2人はどういう関係なの?」
「こいつと俺は」
 梓は奏に問いたつもりだったが珍しく紅明が話してくれるそうなので突っ込まずに聞いた。
「幼なじみ」
「それだけ?」
 梓の中にはどんな期待があったのだろう。つまんなさそうな顔をしてまた蕎麦を口に運んだ。奏も紅明をじっと見つめて何かをアピールしていたが諦めた。


 奏が引っ越してきてから3週間がたった。いつもの同じ日常を梓はいつも通りに生活していた。少しスリルが欲しいと思いながら。
 ボロマンションだけあってのろのろのエレベーターを下りていた。ウイーンとドアが開いて奏が入ってきた。
「どこか行くの?」
「ん?紅明の部屋。来る?」
 奏に誘われたことや別に用事があったわけでもないので行くことにした。散歩よりは楽しいだろう。それに梓にとっては紅明の部屋にバイト以外で行くのは初めてであり嬉しかった。

†  †  †

 紅明は寝ていた。キャンバスに囲まれながら。寝顔だけはかわいいと梓は思う。(いつもの俺様で根暗な浅井はどこに?)
「昔っから寝顔はかわいいなぁ」
 奏が紅明のほっぺたをツンツンと突っつくと紅明は小さく「ん?」と言って起きた。
「かわいい寝顔だったよ」
「うるせぇ」
 紅明は奏の前だと口数が増える。それはとても嬉しいことであり梓は少し悔しかった。
作品名:赤薔薇の庭 作家名:結城 あづさ