そうさくえほん『なみだのきらいなおとこのはなし』
あるところに、なみだのきらいなおとこがおりました
うまれてからいちどだってないたことがないというのがじまんのおとこで
じぶんはせかいいちつよいのだと いつもいばっておりました
ほかのおおくのひとびととはちがい
なみだのきらいなおとこには おやというものがありません
あるひ ぽん とこのよにあらわれたのです
ですから、なみだのきらいなおとこには、なまえがありませんでした
なみだのきらいなおとこはいいます
おんなはすぐになくからきらいだ
なみだなんぞは よわいにんげんのせんばいとっきょ
ないたことのないおれさまは せかいいちつよい
こんなちょうしでしたから おとこはずっとひとりもの
むらのはずれのきのいえで
ひとりでくらしておりました
おとこは なくにんげんをみくだしていました
おやをなくしたこどもをわらい
せんそうでこいびとをなくしたむすめをばかにしました
それはそれはあまりにひどく
あるひ みかねたかみさまは おとこからなみだをとりあげてしまいました
かなしみをしらないものに なみだのかちはわからない
おまえのようなものに なみだはいらぬ
なみだをとりあげられても おとこはかわらずおとこのままでした
じぶんがかなしむことなどないとおもっておりましたから
なみだがなくてもすっかりへいきでした
あるひ おとこは ねこにであいました
ははおやねこがしんでしまい にいにいとないている
ちっぽけなくろねこでした
なんだ ねこか
おとこがつまらなそうにはなをならすと
くろねこはしんがいそうにおとこをみあげました
なんだとはなんですか ぼくはたしかにねこですが
あなたになんだといわれるいわれはありません
ふん なまいきなやつめ おれさまは
せかいいちつよいおとこなんだぞ こわくはないのか
こわくなんてありませんよ
ふん つまらん
いえへかえろうとあるきだすと
なにをおもったのか くろねこはおとこのあとをついてきました
おいかえしてもおどしても つきまとってはなれません
いつしかおとこもそれになれ
そしてひとりといっぴきは おなじいえでくらすようになりました
おとこは くろねこになまえをつけませんでした
なにせ ひとりといっぴきです
おい とか おまえ だとか
そういったものでじゅうぶんだったのです
うまれてからいちどだってないたことがないというのがじまんのおとこで
じぶんはせかいいちつよいのだと いつもいばっておりました
ほかのおおくのひとびととはちがい
なみだのきらいなおとこには おやというものがありません
あるひ ぽん とこのよにあらわれたのです
ですから、なみだのきらいなおとこには、なまえがありませんでした
なみだのきらいなおとこはいいます
おんなはすぐになくからきらいだ
なみだなんぞは よわいにんげんのせんばいとっきょ
ないたことのないおれさまは せかいいちつよい
こんなちょうしでしたから おとこはずっとひとりもの
むらのはずれのきのいえで
ひとりでくらしておりました
おとこは なくにんげんをみくだしていました
おやをなくしたこどもをわらい
せんそうでこいびとをなくしたむすめをばかにしました
それはそれはあまりにひどく
あるひ みかねたかみさまは おとこからなみだをとりあげてしまいました
かなしみをしらないものに なみだのかちはわからない
おまえのようなものに なみだはいらぬ
なみだをとりあげられても おとこはかわらずおとこのままでした
じぶんがかなしむことなどないとおもっておりましたから
なみだがなくてもすっかりへいきでした
あるひ おとこは ねこにであいました
ははおやねこがしんでしまい にいにいとないている
ちっぽけなくろねこでした
なんだ ねこか
おとこがつまらなそうにはなをならすと
くろねこはしんがいそうにおとこをみあげました
なんだとはなんですか ぼくはたしかにねこですが
あなたになんだといわれるいわれはありません
ふん なまいきなやつめ おれさまは
せかいいちつよいおとこなんだぞ こわくはないのか
こわくなんてありませんよ
ふん つまらん
いえへかえろうとあるきだすと
なにをおもったのか くろねこはおとこのあとをついてきました
おいかえしてもおどしても つきまとってはなれません
いつしかおとこもそれになれ
そしてひとりといっぴきは おなじいえでくらすようになりました
おとこは くろねこになまえをつけませんでした
なにせ ひとりといっぴきです
おい とか おまえ だとか
そういったものでじゅうぶんだったのです
作品名:そうさくえほん『なみだのきらいなおとこのはなし』 作家名:朝野 夜