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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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真夜中のれいゾウこ

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ある晩、おなかがすいて目をさましたぼくは、がまん仕切れずに、こっそりキッチンにいった。
 キッチンのとなりは、パパとママの寝室だから、気づかれないようにぬきあし、さしあしで、階段をそうっと下りた。
 まっくらなキッチンにはいると、冷蔵庫からウイーーンとかすかに音がしている。ぼくは音のする方へむかった。
「たしか、ハムと、チキンがあるはず。それから、おやつに食べたパイが……」
 ぼくは暗闇の中で、わくわくしながら冷蔵庫の扉に手をかけてあけると、ぱあっと、中の電気がついて、目の前が明るくなった。
 ハムは固まりだ。切らないといけないので、パス。音がしたらパパかママが目をさましちゃうもんね。
 エビフライは、冷たいとおいしくないし、かといってレンジでチンするわけにもいかない。で、これもパス。
 お皿に一切れパイが乗っていたので、それを出した。
 それからジュースをもって部屋にもどると、ぼくは電気をつけた。
「いただきま〜す」
 パイにかけてあったラップをはずして、フォークをつきさそうとしたら、
「こんばんは」
 お皿の上に、パイじゃなくてゾウがいた。
 えー? えー? こんなことって!
 ゾウはちっちゃくて、お皿の上にかしこまっている。
 こんばんはっていったよね?
 ぼくは頭の中で、自分に聞いてみたりした。
 でも、ひょっとしてぼくは寝ぼけているのかもしれない。本当はパイに違いないと思って、またフォークを突き刺そうとした。
 そしたら
「やめて、そんなので刺されたらけがしちゃう」
って、声がした。
 目をこらしてよぉく見ると、やっぱりゾウだった。
「うわっ」
 ぼくは改めてびっくりしたんだ。
「きみって、にぶいね。けんいちくん」
 ちっちゃなゾウはくすっと笑った。ぼくはちょっとむっとした。
「にぶいっていうかさあ、ふつう冷蔵庫にゾウなんかいないし。それになんでぼくの名前を知ってるんだよ」
 するとゾウは得意げに言った。
「だって、いっしょに暮らしてるんだよ。知ってるに決まってるじゃないか」
「いっしょって?」
「だから、冷蔵庫にはゾウがいるんだって」
 え? ああ、だじゃれクイズだ。
 冷蔵庫の中にいる動物は? っていうやつ。答えはかんたん。ゾウだ。
 れい・ゾウ・こ。だもんね。
 たしかにそうだと、ぼくがうなずくと、ゾウは、
「でしょ? でしょ?」
と、ぼくの肩に飛び乗ってきた。あんがい身軽なんだ。

「でも、きみ。どうして冷蔵庫にいたの?」
 ぼくが聞いたら、ゾウはおなかをさすりながら言った。
「どこの家の冷蔵庫にもいるんだよ。月に一度、こんな満月の晩に、飛び出すんだよ。なにしろ、おなかにいろんなものを詰め込んで、まいにち働き通しだからね」
 ぼくはおかしくて笑った。だって、ぼくの手のひらにのるくらいのちっちゃいゾウのおなかに、なにがはいるっていうんだろう。
「あ、失礼だな。きみは」
 ゾウは、ちょっとおこった。
「ごめん、ごめん。だって、きみはそんなに小さいのに」
「これは、変身とちゅうで、けんいちくんに見つかったからだよ」
 ほんとうはもっと大きいんだって。
「あ、ほら、ごらんよ。あっちこっちの家からゾウが出てきた」
 小さいゾウが指さした。
 隣の家からも遠くの家からも、ゾウがふわふわ、風船みたいに出てきた。
 ゾウたちは空中で手足をばたばた動かして、泳ぐように空を上っていく。
「あ、みかちゃんちから出てきたのは、ピンク色だ」
「そうだよ。冷蔵庫の色がぼくらの体の色だからね」
 たかしくんちのは白、りゅうきくんちのはメタリックでかっこいい。
 灰色が一番多くて、中には緑色や黄色のもいる。ぼくんちのは水色だ。
 ぼくは窓から目を離して、ちいちゃいゾウをみてみた。ほんのり水色をしている。なるほどね。
「みんな、なにしてるの?」
 ぼくが聞いたら、ゾウは、
「月にいって体の調子を見てもらうんだよ。ちゃんと長生きできるようにね」
って言ったんだ。
「じゃあ、きみも?」
 ぼくが言うと、ゾウはちょっと寂しそうな顔をした。
「このままじゃぼくは月までいけないよ。来月までおあずけだ」
 ぼくはなんだか、悪いことをしたような気になっちゃった。

 悪いことをした……といえば、そうだった。
 ぼくがこんな夜中にもうれつにおなかがすいたわけ。
 ぼくは、妹に意地悪したんだ。
 妹とふたりで、ちょっとの間ママに留守番を頼まれた時、めんどくさくなったぼくは家を抜け出した。
 妹がおいかけてきたけど、無視して仲間が待ってる河川敷に、サッカーをしに行っちゃった。
 帰ってきたら、妹は泣いたらしく、目が真っ赤で、ママの頭には角が生えていた。
「ほんの少しの間、留守番や妹の面倒が見られないなら、晩ご飯は抜きよ」
 勉強部屋に追いやられたぼくは、ゲームでもして時間をつぶそうとおもったけど、ゲームソフトはごっそり隠されていた。
 ママはやることにすきがないや。
 ぼくの大好きなコーンスープのにおいが漂ってきて、フライを揚げるいい音も聞こえてきた。
 あいにく、テレビでは好きな番組もやっていない。ぼくはすきっぱらを抱えてベッドにごろりと横になった。
 そのうちに寝ちゃったんだ。そうして、こんな真夜中に目が覚めた。
 
「どうしたの? けんいちくん」
 ゾウがぼくの顔をのぞき込んだ。
「いろいろ、反省したんだ」
 ぼくが神妙な顔をして言うと、ゾウはにっこり笑った。
「ま、これからは気をつけて。妹のこともちゃんとめんどうみてやるんだよ」
 説教臭いことを言って、ゾウは窓から出て行った。
「どこ行くの?」
「ちょっと、一回り。からだがなまっちゃうからね」
 
 朝、目が覚めて、キッチンに行くと、ママが困った顔をしていた。
 朝一で謝ろうと思ったのに、声を掛けにくい雰囲気だ。
「ああ、けんちゃん。困ったわ、冷蔵庫が壊れちゃった」
「ええ?」
 ゾウはどうしたんだろう。やっぱり、月に一度の健康診断を受けなかったから?
「ママ、ごめんなさい。夕べ、ぼく、おなかがすいて、冷蔵庫を開けちゃったから、こわれたんだ。ゾウがいてね。月にいって健康診断を受けるはずだったのに……」
 ママはきょとんとした。そりゃそうだ。
「何を言ってるの? けんちゃん。たぶん、寿命なのよ。この冷蔵庫」
「寿命?」
「ええ、だって、けんちゃんが生まれるずっと前、パパとママの結婚祝いにおばあちゃんが買ってくれたんだもの。かれこれ十年になるわ」
「じゃあ、捨てちゃうの?」
 ママは笑ってぼくの頭をなでた。
「ううん。今日、電気屋さんにみてもらうわ。どうしてもなおらなきゃ、あきらめるけど、だいじょうぶ。きっとなおるわ」
 考えてみたら、ずいぶん乱暴にしてきたっけ。ドアをなんどもばたんばたんってしめたり。急いでアイスをだして、きちんと締めてなくて、残った中のものが解けちゃったり。
 ごめんよ。冷蔵庫。

 学校が終わると、ぼくは仲間とのサッカーの約束もしないで、家に飛んで帰った。
「ママ。冷蔵庫は?」
 キッチンをのぞいたら、ママが冷蔵庫に買ってきたものをしまっていた。
「このとおり、ばっちりよ」
 ぼくは冷蔵庫のそばに行くと、そっと中に手をいれた。ひんやりする。