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 鷹緒の言葉に驚きつつも、理恵は次の言葉を求める。
「おまえ、すごい勢いなんだもん。いいよ、俺でよければ、つき合っても」
「嘘……」
「嫌ならいいけど?」
 意地悪そうに、鷹緒が言う。
「やだやだ、いい。もちろんいい! 嬉しい!」
 慌てて理恵が言う。そんな理恵に、鷹緒が吹き出した。
 その日から、二人は恋人になった。じゃれ合うように語り合い、時に喧嘩もする。二人は自然につき合い出し、人知れず同棲が始まり、そのまま結婚に至った。まだお互い十代の、早い結婚であった。

「先輩!」
 二人の結婚生活が始まってすぐに、同じ事務所の後輩である内山豪が、鷹緒に声をかける。理恵よりも後輩ではあるが、年は理恵より内山の方が上だ。人懐っこい性格の内山は、特に鷹緒と理恵にまとわりつき、よく行動をともにしていた。
「先輩。今日の夕飯なんですか?」
「知らん」
 内山の問いかけに、そっけなく鷹緒が言う。
「またまた。今日も愛する新妻の手料理でしょ? 昨日のカレーも、マジ美味かったっす」
「おまえ、まさか今日も来るつもりじゃないだろうな? 終電なくなったって泊めてやってから、このところ毎日じゃん」
「いいじゃないですか。さあ、行きましょう!」
「ったく……」
 内山は鷹緒について、鷹緒の家へと向かっていった。
 鷹緒と理恵の関係は、仕事関係で揉めるとわかっていたので人には知らせないということでいたが、鷹緒に密着している内山は、必然的に知ることとなっていた。
「おかえり……って、またあんた?」
 夫である鷹緒の帰りを出迎えた理恵が、内山を見てうんざりして言う。
「そりゃないよ、理恵。今日も理恵の美味しい手料理、食べさせてもらいにきました!」
「あんたね。毎日毎日なんなのよ。私はあんたのためにご飯作ってんじゃないの。それに、年上だからって後輩なんだから、呼び捨てにしないでよね」
「まあまあ……」
 言い合っている理恵と豪に、半分相手にしないで、鷹緒が奥へと入っていく。1DKの小さなマンションは、鷹緒と理恵の物がうまく融合されている。

「鷹緒。豪に言ってよ。毎日来るなって……」
 夜。ベッドの中で、理恵が鷹緒にそう言った。
「言ったって、あいつは来るだろ。家知ってんだから……」
「ああ、もう! 何なの、あいつ……私たちの時間を返せって感じ」
「んー……」
 鷹緒は目を閉じて、生返事をする。
「鷹緒。もう寝ちゃうの? 明日の予定は?」
「……ヒロと会う約束してる……」
「ヒロさんと? そっか。ねえ、鷹緒……」
 理恵がそう言いかけた時、鷹緒はもう眠っていた。
「……馬鹿」
 理恵は鷹緒に背を向けて、目を閉じた。

 しばらくして、企画事務所に勤めていた広樹の勧めで、鷹緒のカメラマンとしての仕事が増えてきた。その頃から、鷹緒と理恵の距離は少しずつ離れていったのだった。

「鷹緒……鷹緒ったら!」
 現代――。
 その声に、鷹緒が驚いて目を開けると、そこには理恵が立っている。
「なんだよ。びっくりさせんなよ……」
「何が仕事よ。眠ってたじゃない」
「そうか……?」
 眠い目を擦りながら、鷹緒が大きなあくびをする。
「……今、何時?」
「十一時半……」
 鷹緒の問いかけに、理恵が時計を見て言った。
「どうしたの? あいつは……恵美は?」
「うん……もう帰ったわ」
 理恵は鷹緒を見つめた。鷹緒は椅子に座ったままで、下から理恵を見上げている。
「……それで、なに?」
 沈黙を破って、鷹緒が尋ねた。理恵は重い口を開く。
「私ね、どうしたらいいのかわからなくて……鷹緒とは、終わったってわかってる。だけど職場が一緒だし、恵美のこともずっと気にかけてくれてて、嬉しかった。それで……」
 理恵がそう言いかけた時、鷹緒は椅子から立ち上がった。
「鷹緒……」
「おまえさあ……それ、どういうつもりで言ってんの?」
 心なしか怒った様子の声で、鷹緒は背を向けながら言う。
「え……」
「俺にどうして欲しいんだ? 告白か、後悔か? もう一度つき合うつもりか? 恵美を引き取って欲しいのか? おまえにわからない気持ちが、俺にわかるわけないだろ」
 少し強く、しかし静かにそう言った鷹緒の言葉は、いつになく重く、理恵の心に突き刺さった。
「……ごめん。どうかしてたね、私……」
「違う! 俺はおまえと別れたからって、おまえのことをないがしろにするつもりはないし、避けるつもりもねえよ。おまえの強いところも、弱い部分も知ってるつもりだ。だから、おまえが困った時や、恵美が呼んだら駆けつける。だからおまえも、少しは素直になれよ! おまえがフラフラしてたんじゃ、俺だって……どこへも行けなくなるだろう?」
「鷹緒……」
 鷹緒はいつになく早口で、理恵を見つめていた。理恵は小さく頷く。
「ごめんね……こんな話、鷹緒にするべきじゃないってわかってたんだけど、他に言える人いなくて……」
「それはどうでもいいよ……」
 溜息交じりで、鷹緒が言う。
「……わかってる」
 そう言って、理恵は押し黙る。鷹緒は煙草に火をつけ、半地下の階段に面した窓のそばに立った。
 長い沈黙が、二人を包む。
「……水と油だね。いつまで経っても、私たち……」
 沈黙を破って、理恵がそっとそう言った。
「……そうかもな」
 煙草の煙を吐き、鷹緒が口を開く。
「……理恵」
「鷹緒」
 鷹緒の言葉を避けるように、理恵が呼んだ。
「鷹緒。私……私ね、やっぱり豪が好きなの……」
 理恵が言った。鷹緒は口を挟む様子もなく、静かに聞いている。
「好きで好きで仕方がないのよ……忘れようとしても、全然忘れられなかった。それどころか日増しに想いが強くなる……こんなこと、鷹緒に話すことじゃないってわかってる。だけど、怖いの……このまま豪を好きでいていいのか。このままじゃ私、おかしくなりそうで……」
 理恵が涙を流しながら、鷹緒の腕を掴んで言った。鷹緒は静かに理恵を離すと、煙草を消して、もといた椅子に座る。
「……理恵?」
 静かに鷹緒が言った。理恵は尚も泣きながら俯いている。
 鷹緒は小さく溜息をつくと、立ち上がって理恵の前へ歩いていった。理恵は泣いているばかりだ。鷹緒はそんな理恵の手を取ると、激しくキスをした。そしてそのまま、テーブルへと倒れ込む。理恵は、拒否することも受け入れることもなく、ただ泣いているだけだ。
 少しして、急に理恵がハッとしたように顔を背けた。しかし、鷹緒は尚も続けようとする。
「やっ……嫌だ!」
 理恵はそう言って、鷹緒を突き飛ばして起き上がった。その途端、理恵の長い爪が、鷹緒の頬を傷つけていた。
「ご、ごめん……」
 理恵が言った。
「……もう帰れよ」
「血が出てる……」
「帰れ。俺はもう、おまえの顔なんて見たくないんだよ……!」
 鷹緒は静かにそう言うと、理恵に背を向けた。
 一瞬、理恵は目を丸くさせると、我に返って小さくお辞儀をする。
「ごめん。ごめんね……」
 そう言うと、理恵はそのまま去っていった。
 理恵が去った後、鷹緒はしばらくその場に立ちすくんでいた。
作品名:FLASH 作家名:あいる.華音