FLASH
もちろん沙織に急用などなかったが、鷹緒と理恵のことを考えると居たたまれない気持ちになり、この場から逃げたくなる。
そんな沙織の気持ちも知らず、鷹緒はいつも通り口を開く。
「急用ってなんだよ。モデルの勉強より大切なこと?」
沙織は俯いた。そんな沙織を前に、鷹緒は言葉を続ける。
「理恵がいないからって何もしなきゃ、なんにもならないだろ。ほら行くぞ」
「なによ。命令ばっかり……」
ふて腐れるように、沙織は口を尖らす。悔しさと悲しさで、涙が出そうになった。
そんな沙織の顔を、鷹緒が静かに微笑んで覗きこむ。
「やりたくないならいいけどね……でも、やるからには頑張るんじゃなかったの?」
目の前の鷹緒の顔を見つめ、沙織は素直に頷いた。
「……うん」
「じゃあ来いよ。ついでに、おまえの宣材写真も撮っちゃおう」
「え! だ、駄目だよ。今日は服だって普段着だし、髪もメイクも気合入れてないもん」
思わず、沙織がそう言った。
「なんだ、そりゃ。いいから来いよ」
「そんな……」
鷹緒は半ば無理矢理に、沙織を連れて事務所を出ていった。