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Pure Love ~君しか見えない~

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 軽いノリで続けた橋野に、祥子は頷いた。孤独に呑み込まれそうで、誰かと一緒にいたかった。
 祥子は急いで支度をすると、夜の街へと消えていった。

 祥子は、何度か橋野に連れて来られた行きつけの居酒屋へと足を運んだ。すでに店の中では、橋野がビールを飲んでいる。そして祥子を見つけると、グラスを持ち上げて招いた。
「いらっしゃい。ビールでいい?」
 橋野の問いかけに祥子が頷くと、素早くビールが運ばれる。
「じゃあとりあえず、祥子ちゃんの昇進に乾杯」
「あはは。昇進ですかね……」
「そりゃあそうさ。君も憧れてた出版社だろ。それに採用されたんだ。もっと喜びなよ」
 橋野の言葉に、祥子は頷く。
「なんだよ、ちっとも嬉しそうじゃないな。じゃあ本題に入るか。水上とどうなったって?」
 サバサバと尋ねる橋野に、祥子は苦笑して口を開いた。
「しばらく、冷却期間を置こうと思って……」
 それを聞いて、橋野は少し驚いた。和人と祥子の関係はよく知っているつもりだ。いつ見ても仲が良く、喧嘩をするようには見えない。
「へえ。マジ喧嘩なんて、初めてじゃないの? 何があったの?」
「何ってほどじゃないですけど……」
「嘘つけ。いつも喧嘩のケの字もないくせに」
 祥子は微笑むと、静かに口を開いた。
「橋野さん……和人は本当に私のこと、好きでいてくれているかわかりますか?」
「……え?」
「和人はいつも一歩引いていて、付き合うきっかけになったのも、遠回しに私から告白したからなんです……それだけじゃない。手を繋ぐのもキスするのも、いつも私からだった。小さな喧嘩をしても、和人ばかりに謝らせて……それが本当に、恋人って言えるのかな……」
 祥子の言葉に、橋野は思ったよりも祥子が落ち込んでいることに気がついた。
 橋野は優しく微笑むと、祥子を見つめる。
「でも、あいつが一歩引いてるのは、障害があるからだろ。あいつ自体の性格なんだろうし、ずいぶん傷付いてきたみたいだし、そんなことは今更だろ。そんなに落ち込むことはないんじゃないのかな……」
「……」
 押し黙って、祥子は和人の言葉を思い出した。祥子が一番悲しかったのは、和人が自分との婚約を否定も肯定もしなかったことではない。自分の障害を楯に逃げたからだ。
(考えてみれば小さなことかもしれない。だけど、どうしてこんなに悲しいんだろう。どうしてこんなに腹立たしいんだろう。和人が障害を抱えているのは事実。だから仕方のないこと? 私は和人の障害を忘れられるほど、身近にいたつもりだった。だけど和人は違う。きっと一生、私と交わることはないんだ……)
 祥子は何かの終わりを悟っていた。すうっと熱が引くように、祥子の中で何かが冷めていくのを感じた。