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Pure Love ~君しか見えない~

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「自分に障害があるせいで、今まで自分の感情を殺してきたのかもしれないけど、私はあなたの恋人になれて嬉しいし、これからずっと付き合いたいと思ってる。だから、せめて私の前では泣いたり怒ったりしてほしいって、ずっと言いたかった……ただ微笑みかけるだけが、優しさじゃないよ」
 その言葉に、和人はぐっときた。今の自分の不安を、祥子はすべてわかってくれているのだと感じる。そしてその言葉は、今の和人にとって一番ホッと出来る、ずっと欲しかった言葉だったのかもしれない。
 和人は俯いた。今にも泣き出しそうだった。そして静かに語りかける。
『ごめん……僕はずっと臆病だった。君に対して、自分から何の努力も出来なかった。それが君の不安や不満材料になっていることは知っていても、自分が傷付くのが嫌だった……僕はずるい。君が好きだと言ってくれても、流れに任せるだけで何もしてこなかった。自分から行動して傷付くのが嫌だった……』
 和人の本心に、祥子は何度も頷いて聞いている。
「いいのよ。それはみんなそうよ……でも私は、自分から行動しないと、和人と付き合うのは無理だってわかってたから……だから、傷付いても和人が好き。これから正直になってくれればいい。あなたの帰る場所が、私のところになればそれでいいの」
『……僕の帰る場所は、もうとっくに君のところだよ……』
「和人……」
 互いが互いに告白するように、これだけ本音をさらけ出したのは初めてだった。
 俯いたままの和人の頬に、祥子が触れる。
『さっちゃんが……』
 その時、和人がそう言ったので、祥子は手を下ろして和人を見上げた。
「……さっちゃんが?」
『婚約者の修吾さんと、別れたんだ……』
「え……?」
 祥子は和人を見つめる。和人はとても辛そうな顔をしている。幸に嫉妬さえ覚えるほどの、苦しい表情だ。
 だが祥子は和人の続きの言葉に耳を傾けた。幸のことも修吾のことも、和人から聞いて少なからずは知っている。
『婚約解消されたんだ……彼女を捨てたんだ!』
 和人の目から、堪らず涙が溢れ出した。人前で泣くなど、一緒に住んでいた祖母が亡くなった時以来である。
「そんな……ひどい……」
 口を結んで涙を拭い、和人は言葉を続ける。
『だけど……一番無力なのは僕だ。僕はさっちゃんの何の助けにもならない。修吾さんを殴ったって、修吾さんが帰ってくるわけじゃなかった……せめて彼がいてくれたら、さっちゃんの心の支えになってくれただろうに、今のさっちゃんには両親しかいない。それが僕には、悔しくてたまらないんだ……』
 涙を堪える和人に、祥子は静かにキスをした。そして優しく微笑みかける。
「でも彼女には、あなたがいるじゃない。両親だけじゃないわ。友達だっているはずよ」
 祥子の言葉に、和人は首を何度も振った。
『僕じゃ駄目なんだ……僕はさっちゃんに、励ましの声をかけることも出来ない。さっちゃんは僕に、泣き腫らすことも出来ない。僕がいることで、さっちゃんを苦しめたくない……もう、会っちゃいけないんだ……』
 その言葉に、祥子は目を見開き、驚いた表情を見せる。
「どうして、そんなこと……そんなふうに思うことないわ。幼馴染みじゃない。彼女だって、そんなふうに和人が思ったら悲しむわ」
 祥子がそう言っても、和人は首を振るだけだ。
「彼女に言われたの? もう会いたくないって……」
 和人の表情に、祥子が気づいてそう尋ねる。祥子の問いかけに、和人は静かに頷いた。
「そんな! いくら大変な時だからって、和人を傷付けることないじゃない!」
 突然、祥子が興奮してそう言った。和人がここまで落ち込んでいる原因を知り、幸を腹立たしくも思う。
『違うよ。僕は傷なんて付かない。だけど、さっちゃんの気持ちはわかるんだ……』
「どうして平気でいられるの? 彼女の婚約者が彼女を捨てたように、彼女は和人を捨てたのよ?」
 祥子の言っていることはもっともだった。だが和人には、幸の気持ちのほうがよくわかる。
『平気なんかじゃない……だけど僕がさっちゃんの立場でも、僕がいるだけで辛くなるのは当然だと思う』
「和人……」
『僕は……もしもさっちゃんに何かあった時は助けたい、なんでもしてあげたいってずっと思ってた。僕が小さい頃、友達が離れていっても苛められても、さっちゃんだけは僕に手を差し伸べて、友達でいてくれたから……だけど実際、僕にさっちゃんを助けることなんて出来なかった。僕はこれほどまでに自分を無力だと思ったことはないよ。だけど、どうしようもないんだ……彼女が唯一望むことは、僕と会わないことなのだから……』
 和人の言葉を聞いて、祥子は和人を抱きしめた。
「じゃあ、忘れなよ。これからは、私が彼女の代わりになるから……私もう、和人の悲しそうな顔も苦しそうな顔も、見たくないの。もう傷付かないで……」
 返事の代わりに、和人は祥子を抱きしめた。もうお互い、何も言わなかった。