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Pure Love ~君しか見えない~

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 幸と幸の母親は、和人の声に驚いていた。和人が聴覚を失ってから、和人の声を一度だって聞いたことがない。
「和人……」
 幸は和人の頬に触れ、悲しみに暮れていた。どうしてこんなことになってしまったのだろう……身体中が痛い。婚約者の修吾も離れていった。夢であったピアノを弾くことも、これからは難しいだろう。
 これからの人生、どうなってしまうのか。そう考えると苦しくて頭が重くなる。なにより和人といるだけで、自分が無力に感じられてしまう。それは幸の心を支ええられないほど重く圧しかかり、生きる希望さえ失われるようだった。
「さよなら……ごめんね、和人……」
 俯きながら幸がそう言った。和人はそれ以上、もう何も言えなかった。
 何も出来ない。だが和人の心は、幸を抱きしめたい思いで一杯だった。傷付いた幸を支えたい。一人にしたくない。いつものように、肩を叩いて合図を送りたい。そう思っても、幸の痛々しい姿では、どこに触れれば痛まないのかすらわからない。
 和人は肩を落とし、唯一触れられる幸の右手を取った。そして幸の胸の前に拳を作り、上下に振る。片手ながらも、『頑張る』という手話が幸に伝わる。それは和人からの『頑張れ』のメッセージとともに、幸自身が『頑張る』という願いが込められていた。和人の精一杯の、励ましの言葉だった。
 やがて幸を見つめると、和人は静かに立ち上がった。そして一部始終を見て辛そうな顔をしている幸の母親の肩を叩いて微笑み、病院を去っていった。