ちいさな告白
私はすっかり途方にくれていた。
かれこれ30分はここにとどまっている。なぜ、というか、どうしてこうなったかというと、原因は私の服の裾をひく、男の子のせいだ。もちろん私は保母でもなければこの子の母親でもない。まったくの赤の他人である。
ここは公園で、いつもここで遊んでいる姿を見た事はある。
家に帰るときに近道になるから使っていたんだけど、だいぶ寂れてきてしまっていて、遊んでいる子供はあまりいないから、いつも遊んでいる子の顔は、わかる。この子はいつもこの時間帯に遊んでいる。
ただそれを知っているからといってそうなるわけでもなくて、周りには私と男の子以外に誰もいない。もちろん、この子の母親らしき人も、いない。
この子の母親はいったい何をしているんだ。
私が何を聞いてもただ黙っているだけで、けれど泣いているわけじゃない。
もう日が落ち始めていて、そろそろあたりは暗くなるだろう。公園の街頭がちらちら瞬いて、灯った。そろそろ私も帰らないといけないけど、この子をおいて帰るわけにはいかないし、それ以前に私の服の裾をがっちりと握っていて、離れそうにない。どうしたものか。
「ねぇ、僕?おうち帰らなくていいの?暗くなっちゃうよ?」
「・・・」
俯いていた顔をぱっとあげた男の子は、大きなくりくりとした瞳で私を見上げた。純粋無垢、という他にない綺麗な瞳に見つめられて、息をのむ。後ろ暗いことやら何やらを全て見透かされてしまいそうだ。まぁ、別にないけれど。
男の子が、初めて口を開いた。あまりに唐突だったために何が起きたのかわからなくて、気づいたのは男の子の声が聞こえてからだった。
「僕ね、お姉ちゃんのこと好きなの」
「はっ・・・?」
「だからね」
ぐいぐいと裾を引っ張るから、せがまれるままに男の子の目線の高さに合わせる。そういえば、小さい男の子と話をするのに屈みもしないなんて、不親切だったかもしれない。なんて思いながらかがみ込んだのは、間違いだっと気づくのは、一瞬後のこと。
ちゅ、と可愛らしい音がして、なんてことだ、私のファーストキスは5歳程度の幼児に奪われてしまった。驚きすぎて絶句していると、男の子はかわいく、かわいく笑った。
「僕、お姉ちゃんと結婚するから!僕がおっきくなるまで、待っててね!」
ほんのりと赤く染まった頬を緩めてにっこりと笑った男の子に邪気は全くなくて、どうも私はプロポーズまでされたらしい。もはや瞬きすらままならない。
キスをしたことを怒るにも怒れないうちに、男の子はまたね!と言って走り去ってしまった。
人気のない公園には、しゃがみこんだままの私だけが、残っていた。
(次にこの少年に会ったのは、3日後のことだ)