ミステリィなお題 1.動機
急な話に遠野は首を傾げた。
「それが……やっちゃったみたいでねー」
閂は苦笑いをすると腰に手を当てて見せた。
長年弓道をやっているお陰で、背筋のピンとした初老の古典教諭は実年齢よりは若く見える。
そして若く見えるが故に無茶な事もする。
結果、年相応にギックリ腰になってしまったらしい……
「それはまた……で、代理の先生は?」
「うーん……俺が聞いた限りだと若い先生みたいだよ?まぁ、引率ってだけだし弓道自体は知らないんじゃないかな?」
「まぁ、今時若い先生で知っている方が珍しいしな……それにしても、うちの学校に若い先生なんていたか?」
「あ、そう言えばそうだね。うち大体、既婚者で40代からの先生ばっかりだもんね」
「だろ?若いって言うには少しな……」
「歳いってるよねぇ……あ、新しい先生とか?」
「新しい先生ね……」
そう言って遠野は少し考え込む仕草をしたがそれ以上情報がないので答えなんて出るわけもない。
「どうかした?」
「いや……」
そう言うと遠野は軽く首を振った。
閂も軽く首を傾げはしたが、自分の持っている情報だけでは何ともできない。
遠野は気にするなと手を振る。
「さ、始めよう」
「そうだな」
そうしてまた、道場内に静かな時間が流れ始めた。
聞こえるのは弓が的を射る音のみ。
『虫の知らせ』
そんな言葉を思いついたのは、もっとずっと後の話―――――
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作品名:ミステリィなお題 1.動機 作家名:ペコ@宮高布教中